確定申告「違法状態」40年以上放置か 国税庁、明細書の書式作成せず
確定申告をめぐり、個人事業主の所得税優遇で添付が必要な明細書の書式を国税庁が作成せず、40年以上、書類に不備がある申告者に優遇を受けさせていた可能性があることが分かった。会計検査院の指摘で発覚したもので、税制に詳しい専門家も「違法状態が長らく見過ごされており、驚くべき事案だ」とする。(桑波田仰太)
■長年抜け落ち
今回問題となったのは、中小企業の連鎖倒産を防ぐための「経営セーフティ共済」。加入する中小企業や個人事業主は取引先が倒産した場合、掛け金の10倍以内で貸し付けが受けられる制度で、掛け金を経費に計上できる税制上の優遇もある。
優遇を受ける場合、確定申告時に掛け金の明細書を添付するよう、租税特別措置法に明記されている。だが、検査院が平成30年に同共済に掛け金を納付した約4万人の個人事業主のうち約1600人を調査したところ、906人(約6億円分)に明細書の添付がないなど書類に不備があった。その多くが、掛け金を経費に計上する優遇を受けている可能性が高いという。
同共済がスタートした昭和53年以降、個人事業主が確定申告時に記入して添付するための明細書の書式を、国税庁が一度も作成していなかったことも判明。このため違法状態が見過ごされていた可能性がある。
「40年以上、明細書の書式を作っていなかった。(共済が)始まった当時のことが分からず、なぜだか分からない」と、国税庁の担当者も困惑する。
検査院の指摘を受け、国税庁は6月、明細書の書式を作成し、確定申告時の添付を周知する通達を即座にホームページに掲載した。
国税庁は同共済以外での税の優遇に必要な明細書の書式を作成し、HPで公開してきた。同共済に関しては添付の周知が長年抜け落ちていた形で、担当者も「明細書の書式が作成されていなければ、添付を求めていないと思われても仕方ない部分はある。検査院の指摘を真摯(しんし)に受け止めたい」と話した。
■実害なく緩みか
「国税庁は官庁の中でも非常にしっかりした役所という印象。今回の事例は非常に驚いた」。税制に詳しい香川大法学部の青木丈(たけし)教授(租税法)はこう話す。
一方で、同共済の優遇で添付が求められているのは、個人事業主が自己申告で記入する明細書。第三者が発行する証明書などの添付までは求められておらず、明細書の有無にかかわらず不正チェックの効果は限定的となる。
青木教授は「明細書が添付されていないというだけで、共済に加入していれば優遇を受ける権利は実際にある。今回、税の徴収における実害はそう大きくはないはず」と推測する。
一方で、税優遇の不公平感をなくすため、税の負担軽減に見合う政策効果があるかをしっかり検証する必要があるという。青木教授は「だからこそ、法律で明細書の添付を求め、税の優遇を受けた人を把握する必要がある。それが40年以上放置されていたことはやはり問題。実害が大きくないがゆえに、国税庁に緩みがあったのではないか」と指摘した。