住宅クライシス

賃貸大手に2・8億円請求 架空工事の責任誰に

 大阪市内の賃貸マンション5棟で、架空のリフォーム代金を支払わされるなどしたために損害を受けたとして、所有会社の「ファインマネジメント」(大阪府豊中市)が今年7月、管理の委託先だった賃貸不動産仲介大手「エイブル」(東京都港区)に計約2億7900万円の損害賠償を求めて大阪地裁に提訴した。エイブル側は、勤務していた元派遣社員が不正に関与した可能性を認め、いったんは示談を持ちかけたが、決裂した。エイブルは不動産関連事業を多角的に展開しており、訴訟の行方に注目が集まる。

 「共犯者」指摘に反論

 7月6日に大阪地裁(田口治美裁判官)で開かれた第1回口頭弁論。エイブル側は出廷しなかったが、答弁書で請求棄却を求めた。

 請求額計約2億7900万円の内訳は、架空リフォーム工事の損害約6150万円▽賃料未払いによる損害約5056万円▽賃料収入の機会損失による損害4640万円-など。

 被告側が地裁に提出した答弁書によると、一連のリフォーム工事には「架空と思われるものがある」としつつも、エイブルで勤務していた元派遣社員がファイン社から受注した工事であり、架空であるかどうかの立証責任はファイン社側にあると主張。エイブル側の社内手続きを経た工事ではないため、法的責任はないと主張した。

 さらに、ファイン社側の処理が「極めてずさん」と指摘した上で、ファイン社の内部に元派遣社員と通じた「共犯者」が存在しなければ、不正の実行は困難とも加えた。

 ファイン社側の代理人を務める藤原航(わたる)弁護士=大阪弁護士会=は産経新聞の取材に応じ、「『共犯者』が存在するとの指摘は全くのぬれぎぬだ。そう主張するならば証拠を示してほしい」と反論する。

 請求書類に「エイブル」

 訴状などによると、ファイン社は平成22~23年に、大阪市内の賃貸マンション5棟の一括管理委託契約をエイブルと結んだ。

 修繕やリフォームの工事は、必要に応じてエイブル側が業者に発注することになっており、エイブル側で勤務していた元派遣社員が担当だったとされる。

 ファイン社側は22年から29年までの間、「退去リフォーム」「リノベーション工事」「屋上防水工事」などの名目で403回に分けて計約6150万円をエイブル側の指定口座に支払ったが、工事が実施された形跡はなかった。また、令和元年7月末まで9年弱にわたり、約5056万円の賃料がファイン社側に正しく支払われなかったという。

 エイブル側は、1回目弁論翌日の7日付のプレスリリースで、架空リフォーム代金は「当社(エイブル)の口座には送金されていない」と記した。これに対し藤原弁護士は、リフォーム代金はエイブルの押印がされた請求書類に従い送金したと明かした上で、「たとえ元派遣社員の不正だったとしても、一括管理の契約先だったエイブルは責任を免れない」との考えを示している。

 示談模索するも…

 エイブル側は、この元派遣社員が不正に関与したとみて、大阪府警に刑事告発している。元年7月には、エイブルと派遣会社、ファイン社の3社で架空リフォームと賃料未払いに関する損害を3等分し、全体の3分の2に当たる計約6016万円を、エイブルと元派遣社員の所属先だった派遣会社の2社が共同で支払う内容での示談案を提示。ところがファイン社側は、残り3分の1の額を自社の過失分として認めなければならない内容だったことなどを理由に、応じなかった。

 エイブル側は訴訟に発展してもなお、ファイン社側にも責任が存在するとの姿勢を変えていない。答弁書では、仮にエイブル側の法的責任が認められるとしても、原告側がリフォームの実施状況を確認していない▽原告側の税理士が不審点に気づきながら十分な確認をしていない-ことなどから、過失は大幅に相殺されるべきだと主張している。

 産経新聞は、示談を模索した経緯などをエイブル側に尋ねたが、同社の担当者は「訴訟中であり回答はできない」などとコメント。ファイン社側の担当者は「エイブルを信頼し管理を任せていた。経緯を明らかにしてほしい」と述べており、真相解明は民事、刑事両面で進むことになりそうだ。(岡嶋大城)

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