専欄

中国現代史最大の謎「林彪事件」から半世紀 中国共産党の100年を振り返る

 元滋賀県立大学教授・荒井利明

 中国共産党は来月、創立100年を迎える。党にとってこの100年間における最大の出来事は、日本との戦い、国民党との内戦に勝利して、1949年に新しい中国を建国したことだろう。

 建国からも既に七十数年になる。その間の最大の出来事は、私は66年に始まり、10年間続いた文化大革命(文革)だと思う。

 毛沢東が起こした文革は、毛沢東が健在の間、革命的な中国をつくり出す「魂に触れる革命」と称されたが、毛沢東の死後、文革は革命とは縁のない「内乱」にすぎなかったとして完全に否定された。

 文革の完全否定は、81年の党の「歴史決議」で明確に打ち出されている。この「歴史決議」は、文革後の改革開放を主導したトウ小平の見解に沿って、文革と毛沢東の生涯を総括するためにまとめられたものである。

 だが、2012年に党の最高指導者となった習近平は、「歴史決議」を「堅持すべき」と語る一方、文革時代と改革開放時代を対立的にとらえるべきではないと表明している。文革時代、さらには1950年代後半の反右派闘争や大躍進など、毛沢東時代の大きな誤りを、「中国の特色ある社会主義」を模索する過程での試行錯誤だったとする見解で、文革の完全否定ではない。

 文革にとどまらず、数千万人もの餓死者をもたらした大躍進など、建国後の七十数年間における「影」が、改革開放後の経済の急成長という「光」によって、時の経過とともに薄くなり、今や言及されることもほとんどなくなっている。

 とはいえ、「影」の歴史は消えてしまったわけではない。「光」も「影」も含めての100年であり、党の誤りによって餓死した者や犠牲となった者たちは、社会主義「模索」の結果とみなされることに納得できるだろうか。

 習近平は今年2月の「党史学習教育動員大会」における演説で、「歴史は最良の教師」と述べている。ただ、歴史が「教師」であるためには、歴史の「光」の部分だけでなく、「影」の部分にも謙虚に向き合うことが必要だろう。

 文革が終結してから45年、中国現代史最大の謎とされる林彪事件からは半世紀になる。事件の真相は明らかでなく、文革に関しては、林彪事件に限らず、文革10年間の犠牲者数など、なお不明なことが少なくない。歴史の真相を明らかにしないままでは、歴史に学ぶことなどできないだろう。(敬称略)

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