中国共産党の最高指導者と最高位指導者
中国共産党は今年7月、創立100年を迎えるが、この100年間のうち、党内において最大の権力を保持する最高指導者と、党の最高ポスト(主席や総書記)を占める最高位指導者が同一人物ではなかった期間もある。(元滋賀県立大学教授・荒井利明)
例えば、文化大革命(文革)後の1978年末から94年秋までのトウ小平時代である。この間、実権を握っていたトウ小平は、軍の最高位に就いたことはあるが、周りから推されても党の最高位を占めることはなかった。
当時はトウ小平ではなく、毛沢東の後継者とされた華国鋒(主席)や胡耀邦(主席、総書記)、趙紫陽(総書記)、江沢民(総書記)が次々に党の最高位を占めた。最高指導者と最高位指導者が異なったこの間、最高指導者のトウ小平によって、最高位指導者の交代が頻繁に行われ、政治的に安定しない期間が続いた。
中国共産党には現在、「七上八下」という指導者交代に関する暗黙のルールがある。党大会の開催時に、67歳以下であれば、党中央の最高指導部にとどまることができるが、68歳以上であれば、とどまることができないというルールである。これは指導者の若返りとともに、指導者の交代を円滑に進め、政治的安定を確保することが狙いである。
2017年秋の前回党大会で、王岐山が党中央政治局常務委員会メンバーでなくなったのは、そのルールが適用されたためである。習近平は22年秋に開かれる予定の次期党大会では、69歳になる。このため、ルールに従えば、総書記の続投はできない。
だが、このルールの狙いである政治的安定を確保するためには、習近平は総書記を辞任するのではなく、ルールを破って、留任し続投することが理にかなうことになる。
習近平は最高指導者であることに変わりはないが、総書記を辞任して、他の指導者を最高位に据えた場合、最高指導者と最高位指導者が異なる人物となり、習近平がトウ小平のように振る舞えば、トウ小平時代と同じく、政治的安定が損なわれかねない。
コロナ禍や米国との厳しい競争の中での政治的不安定は、「中華民族の偉大な復興」という「中国の夢」の実現を目指す中国にとって、好ましいものではないだろう。
現在、習近平の次期党大会での総書記続投が確実視されている。習近平は、ルールを守らないことがルールの目的にかなうという、逆説的ではあるが、好都合な状況にあるといえよう。(敬称略)