「増税あって国滅びる」
「財政再建」「将来世代にツケを回さない」などの美名の下、増税議論が盛んになりつつある。これらの動きは、経済危機の中でまん延する「緊縮病」だといっていい。
新型コロナ危機で政府は巨額の赤字国債を発行した。この「政府の借金」を将来世代の負担にしないために、現役世代で返済すべきだという発想での議論である。例えば、経済同友会は率先して「新型コロナウイルス問題特別会計(仮称)」を設けて、そこを起点に「コロナ増税」を盛り上げようとしている。
さすがに政府は総選挙対策もあるのか、現時点ではコロナ増税の声を聞くことはない。だが、報道では、財務省は昨年の春にもコロナ増税に動いたという。相変わらず、国民の救済より増税を優先するのが財務省の行動パターンだ。
東日本大震災の時も、まだ人々が災害救援や福島第一原発の対応に追われている最中であっても、財務省は増税路線を与野党に積極的に仕掛けていた。震災の翌々日、野党だった自民党の谷垣禎一総裁(当時)は、菅直人首相(同)に臨時増税案を持ち掛けている。
具体的な復興政策や救援の提言ではなく、増税が優先されていたわけである。まさに奇怪きわまる動きだった。この動きはやがて復興増税につながり、与野党の結託が消費増税法案に結実するのである。裏で画策していたのは、財務省寄りの政党幹部らや財務省であることは明らかであった。
詳細は経済評論家の上念司氏との共著「『復興増税』亡国論」(宝島社新書)に詳しい。つまり、財務省的な発想では、災害も増税路線を築くための手段でしかないのだ。まさに「増税あって国滅びる」かのような思考である。
経済を安定化させる「借金」
ところで、財政危機かどうかをチェックする簡単な方法がある。それは名目経済成長率と、10年ものの国債金利を比較することだ。家計で言うと、前者は毎年の所得の伸び率であり、後者は借金の利回りである。前者が後者を上回れば「借金」の返済が容易、ということになる。
現在の10年ものの国債利回りは、せいぜい0.1%前後で推移している。これは、もちろん日本銀行の金融緩和政策の成果でもある。それに対して、年次の名目経済成長率(2020年)はマイナス4%である。前述の方法で比較すると、まさに「財政危機」だ。この状況を放置すれば、家計なら破産するだろう。
家計的な発想ならば、頑張って節約に励み、より一生懸命に働くことが危機の回避方法だ。しかし、一国の経済は違う。ここから先は家計の考え方から離脱しなくてはいけない。現在のような状況では、国債を発行して、さらに「借金」を積み重ねることで経済を維持し、景気を刺激して経済を安定化させることが望ましい。つまり、家計は節約するのが正しいが、日本経済では借金してでも消費をすることが良いのだ。その結果、日本経済は「名目経済成長率>10年ものの国債金利」を実現することができる。