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高級旅館をM&Aした写真館 中小事業主救うネット仲介

 新型コロナウイルスによる影響が顕在化してから1年余り。サービス業を中心にコロナ禍で事業モデルの転換が経営課題になっている。写真館運営の小野写真館(茨城県ひたちなか市)は令和2年10月、伊豆の高級温泉旅館をM&A(企業の合併・買収)で取得。写真館と高級温泉旅館。何も関連がないように見えるが、小野哲人社長は「感動体験を切り口に双方のシナジー(相乗)を生み出して、新たな需要を掘り起こす」と意欲的だ。

 小野写真館は昭和51年創業。2代目となる小野社長はブライダルや振り袖レンタルなどに進出。祖業の経営資源をもとに多角化展開を目指す「アトツギベンチャー」として、年商16億円規模にまで成長させた。

 ところが、新型コロナの世界的な流行が小野写真館の経営に大きな打撃を与える。令和2年春以降は結婚式の中止や延期が相次ぎ、同4~5月の売上高は前年同期比8割減にまで落ち込んだ。

 危機的な状況の中で小野写真館は攻めの一手を打つ。結婚式や成人式など、晴れの舞台には記念撮影が付き物。「同じように非日常の世界が体験できる場として、宿泊業にはコロナ前から関心があった」と話す小野社長。ビジョナル・インキュベーション(東京都渋谷区)の事業承継仲介サイト「ビズリーチ・サクシード」に、伊豆半島にある静岡県河津町の高級温泉旅館「桐のかほり 咲楽(さくら)」が売却案件として掲載されていたのに気付いた。

 この旅館は全4室で、各室のバルコニーにある露天風呂からは海が一望できる。部屋食のため、いわゆる「密」も避けられる。7月に現地を訪れた小野社長は「ウィズコロナのライフスタイルにぴったり」とすぐに気に入った。

 旅館のオーナーだった萩原良文さんは親族内承継を検討したものの実現が難しく、廃業も考えたが、「常連客から続けてほしいとの声を受けた」ことから、親族外承継に切り替えて買い手を探していた。

 買収をめぐっては小野写真館以外に大手企業2社が手を挙げていたが、「お客さまに感動を与えたい。写真技術やブライダル事業で培ったおもてなしを新たなビジネスに生かしたい」という小野社長の熱意に感銘を受けたことが決め手となった。

 新型コロナに関する2回目の緊急事態宣言が首都圏1都3県などに発令され、年明け以降宿泊予約のキャンセルも相次ぐ中、今年1月31日には旅館に併設した1日1組限定の写真館をオープン。旅館で働く4人のパート従業員の雇用を引き継ぎ、カメラマンや料理人を送り込んだ。

 2月23日には旅館を貸し切った結婚披露宴が開かれた。披露宴を挙げたのは茨城県在住の30代のカップル。新郎は滋賀県出身、新婦も茨城県出身で伊豆には特段のゆかりはなかった。新郎は「両家のちょうど真ん中で、ここなら家族を呼べる」、新婦も「コロナ禍の状況で式や披露宴が挙げられるとは思わなかった」とうれしそうに話した。

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