海外情勢

カンボジアのコロナ感染少ない謎 低い人口密度、平均年齢の若さ関係か

 新型コロナウイルスの感染はいまだ収束の兆しが見えないが、カンボジアを含むインドシナ3カ国は、世界的にみても感染拡大が抑制されていることが分かった。カンボジア地元紙が、統計分析の専門家の見方として伝えた。

 カンボジア保健省によると、2月19日までに国内で判明した新型コロナ感染者は484人。昨年1月末に初めての感染者が確認されてから1年余りの累計だ。重症者数は不明だが、このうち470人は既に回復しており、入院中はわずか14人となっている。

 多くは国外から

 クメール・タイムズによると、世界の新型コロナ感染状況を日々データ更新してまとめている統計サイト「ワールドメーターズ」を基に、カンボジア在住のデータ分析専門家であるデビッド・ベナイム氏が、カンボジアの状況を他国と比較しながら分析した。

 それによると、カンボジアは新型コロナによる死者がおらず、人口比の感染者数もラオス、ベトナムに次いで世界で3番目に少ない。ラオスは人口100万人当たりの感染者数が6人。次いでベトナムが16人、カンボジアが27人となっている。対照的に感染拡大が深刻な英国は5万4980人、米国は7万9249人であるという。(ワールドメーターズに報告された中でも感染者数が20人以下の国や、人口10万人以下の国などを除いている)

 カンボジアは今年1月末までに約43万人に新型コロナのPCR検査を実施しており、検査数1000人に占める陽性者数は1.1人程度、陽性率は0.11%だった。この数値を他国と比べると、米国では3億3500万人余りを検査しており、陽性者は2800万人以上、陽性率は8.4%にも上るという。

 カンボジアで初めて新型コロナの陽性者が確認されたのは昨年1月27日。中国・武漢からシアヌークビルを訪れた中国人男性だった。男性は無事回復し、2次感染も発生しなかった。それから11月下旬に初めての市中感染が確認されるまで、カンボジアでの感染は全て外国からの入国者またはその濃厚接触者だった。

 11月下旬の市中感染では6500人以上が検査を受けたが、41人の感染確認にとどまっている。きっかけとなった感染者が政府内務省の高官の家族だったこともあり、カンボジア政府はいち早く感染者情報を公表。感染者の名前や顔写真、行動履歴を公開して接触者に検査と一定期間の自主隔離を呼びかけ、スタジアムなどの特設検査場で無料のPCR検査を実施した。

 個人情報の公開や検査方法の安全性などさまざまな問題はあるが、「医療インフラが脆弱(ぜいじゃく)な国で感染拡大が起きてはならない」という生命に対する危機感が、こうした問題点を越えて国民にも共有されていたようにみえる。1カ月後の12月下旬、フン・セン首相自らが市中感染の収束を宣言している。

 水際防疫を強化

 なぜカンボジアで感染者が少ないのか。分析専門家のベナイム氏はクメール・タイムズの質問に対し「正解は出せない」としている。一般的にいわれるのは、都市化が進んでおらず、人口密度が低いこと。また、カンボジアの中位年齢が27歳で、50歳近い日本などと比べて国民の年齢が若いことも関係があるのではないかと指摘される。

 これに加えてベナイム氏は、同紙にユニークな考察を伝えている。それによると、人口100万人当たりの新型コロナの感染者数で比較した場合、その数値が低い25カ国のうち24カ国が、北回帰線と南回帰線の間に位置しているということだ。この地域では、他地域に比べて日に当たる時間が長く、より多くのビタミンDを摂取することができる。

 もっとも、確かにビタミンDが新型コロナの重症化を防ぐ可能性があるという報告がみられる一方で、同じ地域でもインドネシアやフィリピンでは感染拡大が深刻であることから、ベナイム氏本人も必ずしもこのことだけが影響しているとはいえないとしている。

 謎の多いカンボジアの新型コロナ状況だが、感染症は国内の安全確保で解決する問題ではない。実際、隣国タイでは昨年12月から感染者が急増し、移民労働者のコミュニティーで不安が高まった。多くの在タイ・カンボジア人労働者がカンボジアへの帰国を希望し、カンボジア政府は国境での防疫態勢を強化。帰国者に検査と2週間の隔離を義務付け、国内での感染拡大を水際で食い止めようとしている。タイからの帰国者の中では、この2カ月ほどで89人の感染が確認された。

 カンボジア国内での新型コロナワクチン接種は今月10日、医療関係者や国防省関係者を中心に開始された。だが、現在確保できているワクチンは中国とインドから寄付された110万回分のみで、今後の購入計画は明確になっていない。(カンボジア日本語誌「プノン」編集長 木村文)

Recommend

Biz Plus

Ranking

アクセスランキング