海外情勢

日本は西欧モデルを手本にしてきたが…感染者「1日4万人」でも譲れないもの

 パリで17日0時、夜間外出禁止令が施行された。新型コロナウイルス封じ込めへの強硬措置。16日夜、わが家に近いモンマルトルのカフェをのぞくと、団体客が「最後の一杯を」と祝杯をあげ、大盛況だった。

 コロナ不況が一瞬吹っ飛び、店員は大忙し。まるで大晦日のカウントダウンのよう。何のための規制か、と少々とあきれた。

 コロナ対策の外出禁止令は2度目。今春の最初の禁止令は昼夜ぶっ通しで、商店もほぼ全面閉鎖という過酷なものだった。国民が政府の強権を受け入れ、危機に立ち向かう姿に「これが西欧民主主義か」と舌を巻いた。18世紀の仏思想家、ルソーが説いた「人は生命を守るため、生来持っている自由権を政府に託す」という社会契約論そのもの。日本は「自粛のお願い」一辺倒で、頼りなく見えた。

 だが、半年たって見方が変わった。強権ルールは、「政府の指示に従っていればよい」という甘えを生む。個人の責任感で対応する「塩梅(あんばい)」というものがどうも希薄なのだ。

 20代の知人は「感染対策で、誕生日パーティを2部制にした」と言う。狭いアパートに20人を招くため、「宴会は10人まで」のルールに従い、10人2時間ずつの入れ替え制にしたそう。どれだけ意味があるかしら…。70代の友人と和食店に行ったら、「2週間前にパーティで同席した人が、コロナで急死した」とのたまうので、味噌汁を吹き出しそうになった。「怖くないの?」と聞くと、「そりゃ、怖いわよ。でも、保健所から連絡ないし」と言い、社交を続けている。感染者数はこの日、1日3万人の大台を超えたのに、どうも緊張感に乏しい。

 さらに、一律ルールはストレスがたまる。レストランやタクシー業界で「押しつけ規制」への抗議デモが相次ぐ。今回の外出禁止令では、人混みを避けた夜の散歩やジョギングまで135ユーロ(約1万6千円)の罰金対象だから、「不合理だ」という不満も沸く。

 20日付ルモンド紙を開くと、日本が欧州に比べて感染者が少ない理由を東京特派員が分析していた。清潔好きの国民性に加え、「個人や集団の責任感」を主要因にあげた。「自粛方式」の意外な強さにフランス人は驚いたのだろう。

 16日にパリ郊外で起きた教員殺害テロは、フランスと日本の「社会の違い」を実感する機会になった。

 イスラム教の預言者ムハンマドの風刺画を授業で使った教員が、過激派に刺殺された事件。「表現の自由を守れ」と訴えるデモは、国民運動となって広がった。こうなると、「集会は1000人まで」のルールは度外視である。

 18日にパリのデモ会場に行くと、身動きできないほど満員で、カステックス首相も駆け付けた。どう見ても1万人はいたが、警視庁に人数を聞くと「公表せず」というだけ。21日夕に開かれた教員の追悼式で、大統領が帰路の車に乗ったのは午後8時半。周囲に集まった数百人のうち、外出禁止の午後9時までに何人が帰宅できただろう。

 日本なら「政府が自らルールを破っていいのか」とやり玉にあげられるところだが、フランスで批判するメディアは皆無だった。この国では「自分たちの正義」を示すため、みんなが結集し、魂を触れ合わさねばいられないらしい。

 そうこうするうちに、22日の発表で、1日の感染者数は4万人を超えた。人口比で換算すれば、日本なら8万人近い規模である。

 社会保障や医療水準で世界をリードするはずの西欧が、コロナ感染をなかなか抑制できない。日本は長く、西欧モデルをお手本にしてきたが、国際統計や制度は「生命を守る国力」を必ずしも反映しているわけではない。今回のコロナ危機が、それを示した。(パリ 三井美奈)

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