海外情勢
経済学者トマ・ピケティ氏が中国検閲の削除要求に抗議 新著の出版差し止め
【パリ=三井美奈】フランスの経済学者トマ・ピケティ氏が最新作の中国語版について、中国当局が国内の所得格差などを指摘した約20カ所の削除を求めたことに抗議し、出版を差し止めたことが2日、分かった。ピケティ氏は産経新聞の取材に対し、「完全な翻訳しか出版は認めない」と主張した。
最新作は「資本とイデオロギー」が題名。主に共産主義国家の変容を扱っている。
ピケティ氏によると、中国側が削除を求めたのは、所得格差のほか、当局の不透明性を指摘した部分。「21世紀初め、ポスト共産主義が超資本主義に近づいたのは、スターリン主義、毛沢東主義が破綻し、平等社会を目指す志を放棄したからだ」「中国の対応は不透明で中央集権に基づくため、私有財産制が生み出す格差をうまく調整できない」などの記述が対象になった。
中国では2010年以降、一部の富裕層への民間資産の集中が米国並みに進んだという指摘も、掲載が認められなかった。
ピケティ氏は「検閲は、中国政府が神経質になっていることの証。異なる経済、社会システムをめぐるオープンな対話を拒否している」と述べた。
一方で同書は、近く台湾で出版予定。香港でも出版を目指すという。
ピケティ氏は13年、世界的ベストセラーとなった「21世紀の資本」で、米欧での格差拡大の構造を描いた。習近平国家主席はこの本の指摘を引き合いに、米欧資本主義に対する中国モデルの優位性を主張していた。