全土封鎖で深まるインド社会の分断 出稼ぎ労働者困窮、反イスラム加速
インドで貧富の差や宗教による社会の分断が深まっている。2期目就任から1年が過ぎたモディ首相は、新型コロナウイルス対策で全土封鎖を実施したことにより、数多くの出稼ぎ労働者が路頭に迷う事態を招いた。ヒンズー至上主義の色彩を鮮明にし、イスラム教徒に厳しい政策も次々と打ち出している。
帰郷中の死亡相次ぐ
駅のホームに横たわった女性。掛けられた布を2歳半の息子がはぎ取ると、既に息絶えていた-。東部ビハール州で撮影された動画が5月下旬、ソーシャルメディアで広がった。
地元メディアによると、女性は西部グジャラート州に出稼ぎ中のきょうだい一家と暮らしていた。全土封鎖に伴う経済停滞で帰郷を余儀なくされ、列車で移動中に2人の子供を残したまま死亡した。
全土封鎖はモディ氏が3月24日夜の国民向け演説で発表、翌25日から実施された。多くの出稼ぎ労働者が職やすみかを失い、何百キロも徒歩で帰郷し始めた。政府は5月から特別列車の運行を認めたが、地元紙によると同9~27日の間に計約80人が移動中に死亡。暑さや飢えが原因との見方が出ている。
全土封鎖で移動は制限されていたが、それを破ってでも帰らざるを得ない労働者の姿は、貧困層の実態を如実に示した。日本貿易振興機構アジア経済研究所の湊一樹研究員(南アジア政治経済)は「コロナ禍はモディ政権下で深まる分断を白日の下にさらした」と指摘する。
全土で抗議デモ
一方で、政権は2期目に入ってから、イスラム教徒が多数派だった北部ジャム・カシミール州の自治権を剥奪し、連邦政府直轄地に分割。周辺国から宗教的迫害を逃れてきた移民に国籍を与える改正国籍法ではイスラム教徒を除外するなど、反イスラム的な傾向を強めている。
インドはヒンズー教徒が多数派で、モディ氏の率いる与党・インド人民党(BJP)の支持母体はヒンズー至上主義団体だ。政府発表の四半期ごとの成長率は政権2期目に入り低下する一方で、経済の失速を覆い隠すかのようにイデオロギーに訴える政策を実行している。
特に改正国籍法をめぐる抗議デモは全土に拡大し、首都圏を含む各地で治安部隊だけでなく賛成派、反対派の衝突も発生、多数の死傷者を出した。
湊研究員は、悪化する農村の貧困状況や、宗教対立を引き起こしている現状から、モディ政権について「国民の生存を守るために国家があるという意識に欠けている」とみている。(ニューデリー 共同)