出荷時には「メイドインチャイナ」
国連による経済制裁が強化される中でも北朝鮮貿易で利益を上げているのが、かつらビジネスだ。
最近はウィッグ、頭に医療用をつけた商品名も多い。北朝鮮で作られているのは全頭かつら(フルウィッグ)と呼ばれるもので、中国から人工毛を含めたすべての素材を送って編み込みと裁断などを行い、中国へ戻して製品化して日本をはじめ世界中へ販売されている。
北朝鮮では、ウィッグ以外にも同じように人工毛を使ったつけまつげも多く生産されている。ここ数年、これらの生産、貿易業が好調とのことだ。ウィッグの要となる重要作業は北朝鮮で行うものの中国で製品化されるため、出荷時には「メイドインチャイナ」となる。
5月末、中朝国境の丹東のある事務所を取材すると、狭い事務所に麻袋が山積みになっていた。すべて北朝鮮へ送る予定のウィッグの素材だという。ビデオコールで見る限り、1ルームという事務所の天井高くまで積まれた未送品が確認できる。
「2月上旬に中朝国境が封鎖されたので(北)朝鮮に送ることができず山積みになっています。およそ650万元相当(約1億円)が在庫になっています」(ウィッグ販売を手掛けるA社代表)
A社は、年間3、4万個ウィッグを北朝鮮で生産して販売している。すでに5か月ほど止まっていることになる。同様のかつらビジネスはモデル化されて多くの丹東の貿易商が扱っている。
中国国内での生産へ切り替えられないのかと尋ねると、「できるが人件費でコストが大幅に上がることと、人工毛の編み込み作業のスキルが低いので品質も落ちてしまう」と肩を落とす。
素材一式中国から送っているから問題ない?
北朝鮮は昔から縫製技術が高いことで知られている。国連制裁強化前は、日本の大手紳士服企業やファストファッションブランドの袖口やボタン周りの縫い付けなどを北朝鮮の工場へ委託していたこともある。委託作業の流れとはしては、ウィッグと同じで、中国から素材を北朝鮮へ運び、一部縫製作業を北朝鮮で行い生地として中国へ再び運び製品化して、中国製として販売されていた。
A社代表は扱っているウィッグは国連制裁に抵触しないと説明するが、2019年に米カリフォルニア州のコスメ企業が中国から輸入していたつけまつげに北朝鮮由来の原料が使用されていたとして、米財務省から100万ドル(当時のレートで約1億1000万円)近い罰金を科されたとの報道があった。
このケースは北朝鮮由来の素材(人工毛?)を使用していたために抵触したと考えられ、A社などが手掛けるかつらビジネスは、素材一式中国から送っているから問題ないという認識のようだ。とはいえグレーなビジネスであることは疑いようもない。