アマゾン先住民にも新型コロナの脅威 低い医療水準、開発政策も悪影響
【ワシントン=住井亨介】南米ブラジルでの新型コロナウイルスの感染拡大が止まらない。冬を迎えて感染者が100万人超となり、死者数も5万人を超えた。感染は熱帯雨林のアマゾン奥地にも広がりつつあり、先住民の絶滅につながりかねないとの指摘も出ている。
米CNN(電子版)によると、先住民に最初の死者が出たのは4月。アマゾン地域の村落に住んでいたヤノマミ族の少年(15)だったという。
米誌ナショナル・ジオグラフィック(電子版)は、ブラジル先住民連合(APIB)発表の数字(6月9日)として、先住民の死者は262人に上ったと報道。新型コロナに感染した先住民の致死率は9・1%で、一般人の5・2%に対し約2倍となっているとしている。
感染拡大の要因とみられているのが、貧しい医療態勢だ。CNNによると、先住民の村落から集中治療室(ICU)がある最も近い病院までの平均距離は315キロ。村落の約1割は700~1千キロ以上離れたところにある。医薬品の供給も十分ではなく、先住民は主に伝統的なハーブ薬などで治療をしている状況だ。
もう一つの原因は、ボルソナロ政権が進めるアマゾン開発の影響だ。ブラジルからの報道によると、国立宇宙研究所(INPE)は4月のアマゾンでの森林伐採面積が前年同月比64%増となったと発表した。
経済重視を掲げるボルソナロ大統領は、森林消失に関する研究機関のデータを「嘘だ」と否定。厳しく規制されてきた開発に前のめりだとして批判を浴びている。
保護政策の後退で木材調達のほか地下資源の採掘などを目的にアマゾンへの不法侵入者が増えており、感染症に脆弱(ぜいじゃく)な先住民へ新型コロナの感染を広げているという。こうした侵入者への対策は新型コロナの影響で後手に回っており、先住民は二重の脅威に追い詰められている形だ。
「大量虐殺の恐怖といっても過言ではない」。ブラジルの気候科学者カルロス・ノブレ氏は英紙フィナンシャル・タイムズ(電子版)に対してこう語った上で、「先住民への感染拡大の恐れと不法侵入者の脅威は大変なものであり、もし止められなければ先住民の文化が終焉(しゅうえん)することになる」と指摘している。
アマゾンの先住民 ブラジルには、約300部族の先住民がいるといわれる。先住民の文化保護などを担う国立先住民基金(FUNAI)によると、約460カ所ある先住民保護区は国土の約12%を占め、アマゾン地帯に集中している。