各国は新型コロナで買収防止 今こそ産業安全保障の危機に備えよ
さらに大企業の資金繰り支援のための出融資も定められた。これは需要が急減した航空会社や自動車メーカーなどを念頭に置いたものだ。しかし出資枠はたかだか1千億円でドイツには遠く及ばない資金規模だ。
中堅企業に対して資本を注入して破綻を防ぐ仕組みもつくる。官民ファンドの地域経済活性化支援機構を活用して最大1兆円まで出資するものだ。ただしこれは地域経済を支える中堅中小企業の破綻を避けるためのもので、安全保障の視点はない。規模も小ぶりだ。
こうしてみてくると、安全保障を揺るがしかねない産業の備えとしては心もとない。株価急落の結果、安全保障に関わる日本企業も資本が毀損(きそん)され、企業買収の格好のターゲットとなる危険な状況にある。単なる一部の大企業の救済策としてではなく、安全保障の観点から戦略的に資本支援を検討すべきだ。
企業経営者も今の事態をしのぐだけでなく、コロナ後の世界をにらんだ布石を打つべきだ。大企業でもこれまでも財務基盤の弱かった企業は存続の体力を奪われていく。コロナ収束後、需要が戻ったときに、これまでの供給体制がそのまま元に戻るわけではない。むしろ今は、グローバルな市場を見据えて、業界再編を仕掛けるチャンスだ。
米中技術覇権争いが激化する中で、世界は経済と安全保障が一体化する時代に入った。そうした流れを新型コロナが加速している。各国は安全保障上重要な産業を自国内に確保することに躍起となっている。日本も短期の問題だけに終始せず、こうした構造変化に危機感を持って備えるべきだ。
政府も「強靱な経済構造の構築」を政策として掲げるならば、単にサプライチェーン(供給網)の国内回帰への支援だけで満足していてはいけない。今こそ産業安全保障の危機に備えるべきだ。先月、内閣の国家安全保障局に「経済班」が設置された。経済安全保障の司令塔ならば、こうした産業安全保障にも重要な任務として取り組んでもらいたい。