専欄

中国が全人代でなすべきこと 思惑通りに事は運ぶか

 中国の全国人民代表大会(全人代)は約2カ月半遅れて、5月22日から開かれることになった。中央指導部としては、新型コロナウイルスが世界に蔓延(まんえん)する中で、中国がいち早く収束させ、世界経済の回復にも貢献していることを強調し、中国共産党の統治の優位性をアピールしたいところだが、思惑通りに事は運ぶだろうか。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 確かに中国では、新規の感染者数が大幅に減り、多くの死者を出した武漢の封鎖も解かれ、全国における企業の生産再開も急ピッチで進んでいる。SARS(重症急性呼吸器症候群)では、収束後の経済回復は早かった。また、2008年秋に発生したリーマン・ショックの際には、4兆元(約60兆円)もの巨額の財政出動を行い、世界経済の回復に貢献したと評価された。

 ところが今回は事情が大きく異なる。企業の生産再開はできても、肝心の需要が大きく落ち込んだままなので、操業率を元に戻すのは難しい。無理して生産を増やせば、在庫が膨らんでしまう。

 鉄道・道路・航空の毎日の旅客利用者数をみても、昨年同期と比べ、ようやく半分に戻った状況である。5月1日のメーデー休みには、各地の観光施設のほとんどが開放されたが、当局は感染再発を恐れ、入場者数をいつもの3割に抑える指示を出した。これを受けて、1日に8万人の入場が可能な北京の故宮では、わずか5000人に絞るという措置を取った。

 全人代ではその年の経済成長率の目標値を明示するのが、恒例となっている。とりわけ今年は国内総生産(GDP)倍増計画の最終年度であり、計画達成のためには少なくとも5.6%の成長率を実現する必要があった。だがいまや指導部内でも、何が何でも計画達成を目指すべきだとの主張は少ないだろう。

 国内の消費や投資は少しずつ回復していくにしても、懸念されるのは輸出に与える影響である。1~4月の輸出(ドル建て)は前年同期比9%減となっているが、先行きは減少幅が拡大するのではないかと予想される。武漢で発生した新型コロナに対する政府の初期の対応が遅れたことへの不満が、世界各国に広がっているからだ。

 少しでも貿易の落ち込みを抑えるには、どうすべきか。全人代の政府活動報告で、対応の遅れによって新型コロナを世界に蔓延させてしまったことを、心からわびる必要があるのではなかろうか。

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