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密接な協力関係だったのに…米中ウイルス研究の分断

 新型コロナウイルスは、一体どこから発生したのか。感染者が最初に出た武漢の海鮮市場からは、決定的な証拠が見つかっておらず、さまざまな憶測を呼んでいる。米国からは、武漢にあるウイルス研究所から流出したのではないかとの疑いが掛けられているが、中国側は逆に米国が中国に持ち込んだのではないかと反撃するありさまだ。米中の対立は激化する一方だが、少し前まではウイルス研究の分野で両国が密接な協力関係にあったことを忘れてはならない。(拓殖大学名誉教授・藤村幸義)

 武漢にあるウイルス研究所の正式名称は、中国科学院武漢ウイルス研究所。1956年に設立され、現在では200人を超える多くのスタッフが研究を行っている。中でも動物由来感染の分野では、「新発伝染病研究センター主任」を務める石正麗女史の名が国際的にもよく知られている。

 一方の米国も早くからウイルス研究に着手し、中でも重視されたのは2009年から始まった「PREDICT(予測)プロジェクト」だった。このプロジェクトは、野生動物(特にコウモリ)からヒトに感染する動物由来感染症を早期に検出・発見することを目的としており、研究を進めるには中国側の協力が欠かせなかった。

 こうして米中のウイルス研究者による共同研究が始まる。石女史らは中国各地の山間部に入り込んで、コウモリのウイルス取得に奔走した。そして重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルスとコウモリウイルスの掛け合わせに成功したと伝えられている。

 ところがトランプ政権になってから徐々に協力関係が崩れ始める。昨年半ばには中国の感染関連部門に常駐していた感染症専門家の派遣費用が打ち切られ、交流のパイプが断ち切られてしまった。

 専門家の間には、新型コロナの遺伝子配列を分析した結果、ウイルスが人工的に製造された可能性は少ないとの見方がある。だが管理に問題があれば、武漢ウイルス研究所から流出した可能性はあり得るし、同じ研究を進めてきた米国の研究所から流出した可能性もゼロではなかろう。

 真相はなお不明だが、少なくとも米中の協力関係が維持されていたら、よりしっかりとした管理が行われ、疑いを掛けられることはなかったかもしれない。新型コロナが発生しても、中国に常駐していた米国の専門家が帰国していなければ、発生の情報をいち早く入手し、世界に警鐘を鳴らすことができたかもしれない。

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