海外情勢

台湾、コロナ拡大で「中国離れ」加速 情報隠蔽や高圧姿勢が嫌悪感刺激

 新型コロナウイルス感染症が世界規模で拡大する中、台湾で「中国離れ」が加速している。習近平指導部による感染情報の隠蔽(いんぺい)や高圧的な姿勢、台湾経済や生活への打撃などが対中嫌悪感を刺激。1月の総統選と立法委員(国会議員)選で大敗した最大野党、国民党でも従来の親中路線を見直す動きが出てきた。

 「売り上げ60%減」

 「中国が世界に取り返しのつかない災難を及ぼした」。台北市のタクシー会社経営の男性は「感染拡大後の売り上げは約60%落ち込んだ」と話し、謝罪どころか「中国は世界の感染防止に貢献している」と胸を張る習指導部への怒りを込めた。

 台湾を2月に訪れた旅客は延べ35万6000人で、前年同月比で62%減少した。入境禁止措置を続ける中国や香港・マカオからの観光客が事実上ゼロになったのに加え、近年増加していた日本や東南アジアからの旅客も大幅に減った。

 経済部(経済産業省に相当)などによると、商業施設や飲食店の売り上げは20~50%減。製造業も中国からの原材料の輸入が滞っているため、在庫が底を突く3月末以降は生産縮小などに追い込まれる可能性が出てきた。

 台湾メディア関係者は「武漢肺炎は庶民にとって『民主』以上に切実な命や経済生活に打撃を及ぼしている」と衝撃の大きさを説明する。

 中国で働く台湾人を対象にした調査では「もう中国で働きたくない」との回答が、1月23日の武漢封鎖前の50%から63%に上昇。台湾独立志向の民主進歩党(民進党)の蔡英文政権が昨年から推進してきた中国進出企業の台湾回帰の動きがさらに勢いを増すのは確実だ。

 蔡氏の支持率後押し

 「中華民国の自由民主制度の堅持が原則だ」。3月7日に国民党トップに選出された江啓臣主席(党首)は就任式でこう強調。一党独裁を敷く中国共産党との価値観の違いを打ち出し、国民党が約20年間堅持してきた対中融和路線の見直しを進める構えを示した。

 蔡総統は昨年の習指導部による台湾統一圧力に対して反対姿勢を鮮明にし、民主化を求める香港市民への連帯を訴え続けた。総統選圧勝で台湾は「反中」が主流となったことを裏付けたが、感染拡大に対する果断な防止策により蔡氏の支持率はさらに上昇した。

 台湾で対中国政策を主管する大陸委員会が2月末に「武漢肺炎」を「新型コロナ肺炎」と言い換えた際は「武漢肺炎とすべきだ」などの批判が相次いだ。反中世論は蔡氏の当初の思惑を上回る勢いで沸騰してきたことをうかがわせる。

 台湾政治大・東亜研究所の王信賢所長は台湾世論が「全面的な嫌中」となることは対中政策の選択肢を狭め、台湾の安全保障に悪影響を及ぼしかねないとの懸念を示した。(台北 共同)

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