論風

混迷深める世界経済 再生には歴史の教訓を

 永久に繁榮し続けた国はない。「ローマの歴史」を書いたモンタネッリは「魚は頭から腐る」と指摘した。政治は権力維持のため保護主義的行動をとる誘惑に駆られる。ローマを衰退させたのは市民をパンとサーカスで甘やかしたからともいう。

 1920年代後半には、保護主義、拡張主義で貿易戦争が拡大し、世界経済は大恐慌に陥り、3年間で世界貿易は3分の1に落ち込んだ。トランプ大統領の米国第一主義による保護措置は、企業を甘やかし、競争に勝つ努力をそぐことになる。歴史は、市場競争こそが成長の源泉であることを語っている。

 複雑な国際情勢において日本はどのような行動をとるべきか。それは、愚直に歴史を学び、国際主義に徹し、その意義を世界に呼びかけることである。同時に市場競争を重視し、イノベーションを推進し、世界で滔々と進行しているデジタル経済に最適な枠組みを提案することである。1993年サミュエル・ハンチントン教授は「文明の衝突」論で世界を8つの文明圏に分け、日本文明を1つの独立した文明圏と位置付けた。私はそれを日本文明が他の7つの文明圏と寛容性をもって協調し得る可能性を示唆していると考える。文化的、経済的に質の高い社会、それがその源泉となる。

【プロフィル】福川伸次

 ふくかわ・しんじ 東大法卒、1955年通商産業省(現経済産業省)入省。86年通産事務次官。88年退官後、神戸製鋼所副社長、副会長、電通総研社長兼研究所長を経て、2005年から機械産業記念事業財団会長、12年4月から現職。87歳。東京都出身。

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