国内

「2000万円」報告書 過剰な表現で税制改正議論に影響

 夫婦で2千万円の蓄えが必要とした金融庁金融審議会の報告書が、過剰な表現で国民に不安を招いたなどとして撤回される見通しとなった。ただ、多くの国民が老後の資産について考えなければならないという現実は変わらない。報告書をきっかけに国民的な議論を喚起したかった金融庁にとっては“痛恨のミス”で、今後、進めようと考えていた税制改正の議論などにも影響が及ぶ可能性がある。

 「もう少し言葉の選び方を慎重にすべきだった」。金融庁の幹部はそう肩を落とす。今回の報告書では金融庁が本来伝えたかったメッセージとは違うところで、議論が紛糾してしまったからだ。

 報告書では長寿化が進む人生100年時代において、「これまでより長く生きる以上、多くのお金が必要となる」と指摘。その上で、金融資産の不足を生じさせないため、保有資産の運用など“自助”の取り組みの重要性を指摘した。

 しかし、この前提となる現状説明の部分で、高齢夫婦世帯の平均的な姿に関連し、「(老後の)不足額の総額は1300万~2千万円」などと記したことは失点だった。実際は退職金や預貯金もあるため「不足額」との表現は言い過ぎであるうえ、支出水準は世帯によって大きく異なるため平均値では誤解を招きかねない。金融庁の別の幹部も「単純化しすぎて、かえって混乱を招いた」と話す。

 しかも影響は報告書にとどまらない可能性がある。金融庁は税制改正の議論にあたり、老後に備えた資産形成支援を目的に値上がり益などを非課税とする各種の少額投資非課税制度(NISA)について恒久化を提案。資産運用を後押しする制度作りを目指してきた。しかし今回の問題で運用の大切さを訴える金融庁の主張がかき消されれば、運用支援税制の検討が停滞するおそれもある。

 法政大学の小黒一正教授は「本質的な部分で金融庁が指摘したことに誤りはない。今後増加が予想される高齢者の貧困問題や社会保障制度改革など、現実から目を背けずに議論を深めるべきだ」と話している。(蕎麦谷里志)

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