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米ウォール街で過熱化する中国ネット株人気 看過される所有構造リスク

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

米ウォール街で過熱化する中国ネット株人気 看過される所有構造リスク

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中国による米国上場 【日曜経済講座】編集委員・松浦肇

 マンハッタンの高級ホテル、ウォルドルフ・アストリアでは、先週までテニス全米オープンの関係者でにぎわっていた。錦織圭選手が決勝戦に出場した8日もホテルには記者団が押しかけていたが、お目当ては違った。

 この日は、中国の電子商取引最大手のアリババ・グループ・ホールディングがホテル内で会社説明会を開いていた。会場に出入りする投資家からは、「すごい案件になりそうだ」と興奮気味のコメントが漏れていた。

 アリババは月内にニューヨーク証券取引所へ上場する予定で、企業価値が2千億ドル(約21兆円)規模となる見込みだ。既に資金調達予定額を超える株式購入の申し込みがあったといい、説明会のあった8日はアリババの大株主であるヤフー株が急騰した。

 アリババだけではない。ソーシャルメディアの微博(ウェイボー)やインターネット検索大手の百度(バイドゥ)など、米ウォール街で中国ネット株が人気だ。米国に上場する中国ネット株は赤字か、黒字でも予想株価収益率(PER)が40~50倍を超える銘柄も珍しくなく、米国の主要500社平均の約17倍をはるかに上回る。

 中国ネット株は、中国のネット消費市場の成長が期待されている。「モメンタム・ストック(勢いのある材料株)」と呼ばれる米新興株の上昇に連動した格好だが、米新興株ほど技術革新力がない分だけ、低金利政策が長期化する市場の「カネ余り」を象徴する現象といえる。

 だが、ここにきて、中国ネット株人気に異を唱える声が聞かれ始めた。

 先週初め、アリババの経営幹部一行が説明会を開いていたころ、投資会社マディ・ウォーターズ・リサーチを率いるカールソン・ブロック氏が市内で会った投資家にこう繰り返していた。「米国の投資家は守られていません。気をつけてください」

 ブロック氏はビジネスモデルや会計報告に問題のあるアジア株への空売りで知られている。その著名投資家が、中国ネット株人気に警鐘を鳴らすのはなぜか?

 「(不正会計で)米国投資家に損させても、中国の経営者に(刑事手続きなど)厳罰を問う仕組みが米中間で取り決めされていない」うえに、「投資家の支配が及ばない『VIE』構造が信用できないから」という。

 ブロック氏のいう「VIE」を直訳すると変動持分事業体で、契約を利用して間接的に中国内の事業に外国資本が関与する仕組みである。ネットや資源など、国益の絡む事業への外資参入が中国では制限されており、その分野で活動する中国企業が海外で資金調達できるようにする「抜け穴」といってよい。

 この仕組みでは、まず租税回避地で米国に上場する特別目的会社(SPC)を登記。SPCは中国内に外国人保有会社(WFOE)を子会社として設置する。

 WFOEが中国で外資が制限されている分野の現地企業である「VIE」との窓口だ。WFOEは「VIE」に対して、技術、商標管理、役務サービスなどを独占的に提供するコンサルティング契約を結び、その対価として「VIE」から利益を受け取る。

 「VIE」と海外の株主は所有関係にないので、都合よく「VIE」の現地株主が契約を破棄・変更するリスクがある。そもそも中国の外資規制は予測しにくく、企業統治面でも「VIE」は不透明感のあるスキームといえる。

 米議会も今年夏に「VIE」のリスクに注目した報告書を発表している。ブロック氏の指摘に加えて、「中国のネット企業では掲載削除に関連した贈賄事件が起きており、米国の海外腐敗行為防止法(FCPA)が適用されるリスクもある」とする。

 アリババや既に上場しているウェイボー、バイドゥなど中国ネット企業も「VIE」を利用している。そのリスクは別に秘密でもなく、米証券取引委員会(SEC)に各社が提出した法定書類にちゃんと掲載されている。

 それでも、中国ネット株人気は今のところ盤石だ。「VIE」を利用している中国ネット株大手11社の株価を指数化(時価総額で加重平均)すると、アリババが上場申請書を提出した5月上旬からほぼ倍の水準に達した。予想株価収益率は103倍である。

 「抜け穴」を許しても米国からの資本が欲しい中国当局、上場手数料を稼ぎたいウォール街、ミニ・バブルに目をつむる米連邦準備制度理事会(FRB)。3者の思惑が一致し、アリババ上場の「ご祝儀相場」は続く。

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