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タイ、じわりクリーンエネルギー 太陽光や風力など施設建設着々

ニュースカテゴリ:政策・市況の海外情勢

タイ、じわりクリーンエネルギー 太陽光や風力など施設建設着々

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 経済成長の続く東南アジアの拠点タイはこのところ、年間の消費電力需要が4%を超える高い伸び率で推移している。慢性的な電力不足の状態で、ひとたび発電所でメンテナンスなどが実施されれば「計画停電」も日常茶飯事。日本の福島原発事故を“教訓”に原子力に頼らない電力政策を政府が模索していることもあって、電力不足解消の切り札も見つかっていない。

 こうした中、じわじわと広がってきたのが太陽光や風力といったクリーンエネルギー。発電量では主力の火力に遠く及ばないが、この1年、着実に施設建設も進んだ。タイにおけるクリーンエネルギー発電の現状を調べてみた。

 中部電など出資

 「イサーン地方」と呼ばれるタイ東北部の玄関口ナコーンラーチャシーマー県。カオヤイ国立公園の麓に位置するこの地方は、なだらかな高原が続いており、山から吹き降ろす風が絶えることはない。この山麓の高台に設置された特設ステージで今年2月、インラック首相も出席して東南アジア最大規模となる風力発電所の運転開始記念式典が行われた。

 稼働を始めたのは「ファイボン2風力発電所」。独シーメンス製の発電機45基は最新式で、定格出力は10万3500キロワット。タイの政府系電力企業や日本の中部電力が共同出資して設立した風力発電会社「KRトゥー」が運営する。中電は20%を出資した。発電した電力はタイ発電公社(EGAT)が引き取る。

 中部ロッブリー県では、三菱商事などが出資する太陽光発電合弁会社「ナチュラル・エナジー・ディベロップメント」が既に世界最大規模の太陽光発電所を稼働させている。5月末、新たに2号機が完成し、1号機と合わせた総出力は8万3500キロワットに達した。今後も規模を拡大していく方針だ。電力はEGATのほかタイ地方電力公社(PEA)に売却。保守点検は日本のシャープが請け負っている。

 省エネ技術の向上が進んだ日本では近年、電力総需要そのものが漸減ないしは横ばいで、大きな変化はみられない。一方、経済成長著しいタイでは2030年頃まで年平均4.13%の高い伸びが続くと予想され、慢性的な電力不足に悩まされることは確実な情勢となっている。このためタイ政府はここ数年、新たな発電所の建設など電力確保に追われている。

 20年で倍増へ

 タイ政府は国内の発電設備容量について11年の実績で約3200万キロワットに対し、30年には約6500万キロワットが必要と見込む。約20年間で倍増させなければならない計算だ。現在、タイ国内の発電は天然ガスや石炭を燃料とする火力が中心で、総発電量に占める割合は約85%。不足分は隣国ラオスの水力発電所などから購入している。

 火力発電所の新設も進めてはいるものの、化石エネルギー源に頼っていては劇的な伸びを期待できない。加えて、ベトナムなどでいち早く導入が決まった原子力発電の検討も、11年3月の東日本大震災に伴う福島原発事故を受け、事実上、棚上げされたままだ。国民的合意が得られる見通しもないことから、政府は可能な限り原子力に頼らない電力施策を模索している。

 そこで注目を集めるようになったのが、太陽光や風力などを中心としたクリーンエネルギーだ。熱帯の国タイでは太陽からの日射量は日本に比べ桁違いに多い。

 これを利用しない手はないと、太陽光発電所の建設が一気に進んだ。昨年9月からの1年間に限っても、少なくとも10の県で建設、稼働を開始した。同様に強い風を利用した風力発電の大規模事業化にも成功した。発電した電力は、工業用や民生用に使用されている。

 こうした流れを受けてタイ政府では、再生可能なクリーンエネルギーの総発電量に対する割合を21年までに最大25%に引き上げる方針を決め、関係機関に指示した。

 太陽光や風力、水力以外にも、木くずや植物などを燃料とするバイオマスエネルギーを使った発電の事業化も検討している。タイで本格化しつつあるクリーンエネルギー事業は急速に拡大しそうだ。(在バンコク・ジャーナリスト 小堀晋一)

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