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反政府暴動、マグマの如き人民の恨み 「石橋を叩いて渡らない」中国ビジネス
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北京・天安門に車が突入、炎上した事件は、ツィッター時代のお蔭で、かなり世界中へ映像がばらまかれたようで、習近平政権への衝撃は直接・間接を含めて、かなり大きかったかと思われます。
一般的な報道では、車に乗っていたのは3人のウイグル族で、新疆ウイグル自治区で発生した暴力事件で直系の親族が当局者に射殺されたことへの“報復”ではないか-ということですが、実際は最低8人がかかわっていた、そして協力者を含めると相当数のウイグル族が関わっていたようです。
ご存知のように、シルクロードの歴史に繋がる新疆ウイグル地区は、中共が強制的に配下にした多くの自治区の中でも、極めて広大な面積を持ち、石炭をはじめ、天然資源の宝庫であるとされています。このため漢民族資本が人海戦術と財力でこの地を早くから蹂躙し続け、この地では暴動が絶えなかったようです。
ウイグル族はイスラム教信徒であり、漢人の横暴は、男性の髭を剃らせたり、女性の頭巾を剥がしたりと宗教的冒涜も度を過ぎたものがあったようで、相当の恨み辛みが度重なる反政府暴動の裏に隠されてきたものといえます。
ちなみに中国全土では、このところ年間数十万件にのぼる反政府暴動が頻発しているそうです。ウイグルやチベットの暴動こそよく耳目にしますが、総計50以上を数える少数民族の弾圧は、各地で大小取り混ぜた騒動を惹起しているのです。
それに加え、経済成長政策の基幹戦略だった都市化が行き詰まった結果生まれた諸問題が一気に噴出しています。資源不足、汚染、食糧不足と安全問題などの社会不安、格差拡大、失業、汚職、バブル崩壊寸前…。こうした現象も相まって、表面化している社会・政治的暴動だけでも数百数千を数え、庶民の鬱屈はマグマのように全土に広がっているものと見られています。
あいにく、北京はPM2.5問題で、濃煙深く、視界もきかないようですが、共産党政権の「聖地」ともいうべき天安門での抗議暴発事件は、三中総会を間近に控えた中央政権中枢にとっても、大きな衝撃だったでしょう。中国のゆがんだ諸政策のツケが今まさに習政権の視界不良、聖地汚辱事件になって現れてしまったとも言えそうです。
習政権は反政府暴動にどう対処していくのでしょうか。これまでも、テロ防衛予算を増額したり、“刀狩”をするなど、相当強化してきたようですが、これを機会に一層、テロ防止策を徹底することになるでしょう。法令規制をも含めた国内治安対策に、北京政府のみならず地方政治もかなりのエネルギーを奪われることになりそうです。
政治と軍事独裁を経済に生かすことで、グローバル経済のパイを要領よく掴み取ってきた中国でしたが、このところ、意外と大きな弱みを見せ始めており、こうした反政府暴動は、明白なるアキレス腱として、今後の習政権の行方を左右しそうな雲行きとなってきました。「ウイグル族対策を誤ると、習政権が共産党最後の主席になるのでは」との一部欧米ジャーナリストの論評が妙に真実味を帯びてきました。
中国でビジネスを展開している企業にとっても、あるいは進出や事業拡大を検討中の事業家にとっても、「石橋を叩いて渡らない」用心深さが求められていると思います。政治外交や文化交流に関しても、是々非々を貫く意志力が問われています。(上田和男)
【プロフィール】昭和14(1939)年、兵庫県淡路島生まれ。37年、慶応大経済学部卒業後、住友金属工業(鋼管部門)に入社。米シラキュース経営大学院(MBA)に留学後、45年に大手電子部品メーカー、TDKに転職。米国支社総支配人としてカセット世界一達成に貢献し、57年、同社の米ウォールストリート上場を支援した。その後、ジョンソン常務などを経て、平成8年(1996)カナダへ亘り、住宅製造販売会社の社長を勤め、25年7月に引退、帰国。現在、コンサルティング会社、EKKの特別顧問。