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【野口裕之の軍事情勢】中国が「イスラム国」に先駆けて使用した「汚い爆弾」

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【野口裕之の軍事情勢】中国が「イスラム国」に先駆けて使用した「汚い爆弾」

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大量のプラスチックごみが押し寄せたフィリピンのマニラ湾。これでは漁もままならず、まさに「汚い爆弾」と言えるが、世界中で海洋投棄されているプラごみの3割が中国から発している=2013年6月8日(ロイター)  人間を平然と斬首するイスラム過激武装集団《イスラム国=ISIL》は国家を気取るが、人権保護局はない? もっとも、中国に環境保護省が存在するから、有っても不思議はない。ただ、ISILの場合「人権反故(ほご)局」がふさわしく、中国環境保護省も「環境反故省」と看板を付け替えた方がお似合いだ。

 中国では「北京遷都」が検討されていると囁かれるほど大気・水質汚染が酷い。わが国はじめ隣国への“汚染侵略”が国際問題となっている。しかも「毒ガス」「水爆」に「プラスチック爆弾」まで加わっては、環境テロを疑いたくなる。米豪専門家チームが12日発表した調査によれば、ボトルやスーパーマーケットの買い物袋などプラスチック類を最も多く海洋投棄している国は中国で、廃棄量は《地球全体の3割》。“地球王者”にふさわしく、破壊力も《北極~南太平洋に至る海流を妨げ、気候変動につながる》地球規模だ。

 「放射性廃棄物」など放射性物質を爆発させてまき散らす《汚い爆弾》を、ISILが使用するのではと緊迫する中、中国は「プラスチック製廃棄物」で汚い爆弾を先行使用した。英国の国際戦略研究所は11日、中国の軍事費は《アジアで4割》と公表したが、こちらは“アジア王者”だった。独善的かつ凶暴な秩序を、凄味を効かせて他者に強要する中国とISILは、東西の魔王になりつつある。

 プラごみ海洋投棄世界一

 確かに中国のプラスチック廃棄は断トツのワースト1位とはいえ、上位10カ国中8カ国がアジア諸国で、中国のみ責めることは公平性を欠く。だが、メコン川上流に在る中国領のダムがゴミ捨て場と化し、下流の東南アジア諸国に甚大な被害を与えている不届きを並べると、中国の“世界観”が透ける。

 中国は膨張を止めない「中華秩序」の、はるか外縁に国際秩序を観ている。さすがに、ヘンリー・キッシンジャー元米国務長官(91)も警戒感を持ち始めたとの見方が出てきた。キッシンジャー氏は超現実主義者。自国益のためには「工場廃液や下水を精製して作る食用油」や「人間の毛髪で作る醤油」といった“中国製格安食品”の輸入すら前のめりになるやもしれぬ。その種の人物が近著《ワールド・オーダー=世界秩序》で論じた。

 《中国は米国主導の海洋秩序安定活動を必ずしも規則とはとらえていない。上級指導層を含め中国人は、国際システムにおける規則順守や責任を求められても、システム自体の構築時に参画していなかったので、順守義務はないと考えている》

 英誌エコノミストも2014年11月、シンガポール外務省高官の諦観を紹介した。

 《全中国人は建国の1949年以前に被った西欧諸国と日本による100年にわたる侵略を念頭に置く。構築時に全く発言権を持っていなかった地域や地球規模の秩序において、中国に「責任有るステークホルダー=利害関係国」としての言動を期待する行為は現実的でない》

 国際秩序に「タダ乗り」

 “戦勝国”を詐称しながら、国際秩序構築に参加しなかったとは面妖だが、実際中国は国際法や国際規範の、無視はもとより破壊を続ける。南シナ海での領有権紛争を平和的に解決すべく、2002年に調印した国際法順守をうたう行動宣言はプラスチックごみ同様に棄てられた。

 右手の棍棒、左手の札ビラを使い分け、国際秩序を切り崩している一方で、国際秩序は図々しく利用する。エコノミスト誌は《タダ乗り》と蔑んだ。

 《中国は世界最大の造船国で、世界第3位の商船数を動かしている。自国籍船保有数でも世界一。漁船も69万5000隻を有する。世界のコンテナ貿易の4分の1を占めるが、コンテナ内部はほとんど中国製品だ》

 ところが、海洋秩序安定の労力とコストは米海軍などに押しつけ、米軍のプレゼンスの間隙を縫ってむしろ乱す側に回っている。驚きはしないが、自覚はゼロ。中国の駐英大使が2014年2月、英国の王立国際問題研究所で行った講演は、聴き手がいたたまれなくなるほど度し難かった。演題からして???

 《中国はアジアの平和・安定の力》

 顔を赤らめてしまう内容の一部を紹介すると-

 「中国は8カ国と領海を接し、海上国境は3万2000キロに及ぶ。海外利益は増加の一途。貿易相手国はますます増え、今では米国を追い抜き世界最大の貿易国に。国際航路の安全への関心も高まり続けている」

 分かっているではないか、と安心したら大きな間違い。大使は「平和発展の道を堅持し、覇権主義に反対する。外国領をわずかでも占領したことはない。国防政策は完全に防御的で平和的である」と、大胆不敵にも言い放った。

 キャベツ戦略

 ところで中国共産党は、帝国主義を走り続けるエネルギー源であり、人民の不満を抑える切り札である経済発展(=軍事拡大)を犠牲にしてまで環境を守りはしない。

 海洋生物が飲み込んだプラスチック破片は体内に蓄積。食物連鎖で、魚を食べた人の健康にまで害を及ぼす。口にした国内外の人々に、虐殺行為に等しい犠牲が出ても、安全な空間・食材を確保できる特権階級は痛痒を感じまい。

 自国の水脈が汚染されても、日本より奪えばよい、と考える。大気汚染にせよ酸性雨を誘発する。酸性雨+化学肥料の超大量投与で、家畜や作物は毒の中で育っていく。特に、サラミとキャベツには十分な警戒が必要だ。

 中国は南シナ海の島嶼を不法占領し、戦争にエスカレートしない程度の現状変更を積み重ね、徐々に勢力圏を広げている。サラミを薄く削ぐ様にも似て《サラミ・スライス戦術》と呼ばれ、陰謀に気付いたときには、手の付けられない版図の大増殖が完成している。

 その過程で中国は、海上武装民兵が潜む擬装漁船の島嶼寄港→海上行政当局巡視船の“漁船保護”→海軍艦艇による死守と、烈度を次第に高めつつ、間を置かず、占領を不動の既成事実に仕立て上げる。占領後も、キャベツのごとき同心円状に幾重にも島嶼を取り囲み居座る。《キャベツ戦略》という。

 「中国製プラスチックが流れ着いた海域・島嶼は中国領」と言い出しかねない異形の大国。それが中国の正体である。(政治部専門委員 野口裕之/SANKEI EXPRESS

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