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文化大革命再来? 習主席の「文芸講話」に批判

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文化大革命再来? 習主席の「文芸講話」に批判

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中国・首都北京市周辺地域  【国際情勢分析】

 中国の習近平国家主席(61)が最近、中国国内の小説家、俳優、歌手、画家など72人の有名文化人を対象に行った「文芸講話」が大きな反響を呼んでいる。「文芸は市場の奴隷になってはいけない」「文芸は社会主義のために奉仕しなければならない」といった内容は、政権による文化、芸術分野への介入強化を強くにおわせるからだ。「毛沢東が起こした文化大革命再来の兆しを感じさせた」と感想をもらす知識人もいた。

 有名文化人を諭す

 習主席が主催した「文芸座談会」と称するシンポジウムは、15日に北京の人民大会堂で行われた。中国作家協会の鉄凝主席(57)、中国映画人協会の李雪健主席(60)、中国書家協会の張海主席(73)ら文学、演劇、美術など各分野の大物のほか、インターネットで欧米の価値観を激しく批判し続ける若手評論家、周小平氏(33)が「ネット作家」の代表として参加したことが注目された。

 習主席は中国の文芸界の現状について「質に問題がある作品が多い」と批判し、「作品を機械的に作り、ファストフードのように消費しているのが問題だ」などと分析した。拝金主義が蔓延(まんえん)していることを指摘したかったようだ。

 その上で習主席は「われわれは文芸の繁栄と発展を推進し、現代中国の価値観を広めなければならない」などと強調した。習主席がいう現代中国の価値観とは、習政権がスローガンとして掲げる「中国の夢の実現」「中華民族の偉大なる復興」などを指すとみられる。

 約2時間にわたる講話の中で、習主席は文芸界のさまざまな問題を指摘したほか、「(中国に)奇妙な形の建物はもういらない」とも語った。オランダ人建築家がデザインし、数年前に完成した国営中央テレビ(CCTV)の新社屋(北京市)が「大きなパンツに似ている」と市民に評されたことを意識した発言とみられる。

 毛沢東を強く意識

 習主席の講話全文はその後、全国の文芸関係者に配られ、各地で「学習会」が行われている。著名なお笑いタレント、趙本山氏(56)は「全文を何度も読み返し、興奮して夜も眠れなかった。文芸界の春が来たと感じた。これからは良い作品を作り、人民に恩返しをしたい」などと講話を絶賛したことが中国メディアに大きく紹介された。しかし一方、「文化、芸術への露骨な政治介入だ」「国家主席は建物の形について発言すべきではない」といった習主席の講話を酷評する批判も寄せられている。

 共産党関係者によると、今回の「文芸講話」は中国建国の父、毛沢東(1893~1976年)が1942年に革命の聖地、延安で行った「文芸講話」を強く意識したものだ。参加者を72人に絞ったのも、毛の講話発表から72周年を記念する意味があるという。

 毛が講話を行ったのは、自身が党内で最高指導者の地位を固めた直後だった。共産党を支持する国内の文芸関係者を延安に集め、「文芸は革命的でなければならない」といった趣旨の講演を行った。

 創作意欲の萎縮は必至

 49年の新中国建国後、この毛の講話は絶対視され、「最高指示」と位置づけられた。「革命的でない」と判断された作品は次々と発売禁止の処分を受け、その作者たちは迫害された。66年に始まった「文化大革命」はこの毛沢東の文芸講話の延長線にあると指摘され、当初の目的は「古い文化と伝統を壊し、新たな社会主義文化をつくること」だった。

 文化大革命終了後、●(=登におおざと)小平(とう・しょうへい、1904~97年)が主導する改革開放が始まり、文芸界に対する締め付けが緩和された。毛沢東の文芸講話は公式的に否定されていないが、事実上、棚上げにされた。政府さえ批判しなければ、文芸作品は比較的自由に創作できる時代が約30年続いた。

 ベルリン国際映画祭でグランプリにあたる金熊賞を受賞(88年)した「紅いコーリャン」など、国際社会から高く評価される作品も多く生まれた。ちなみに今回の文芸座談会には、中国の映画人の第一人者と言われる「紅いコーリャン」の張藝謀(チャン・イーモウ)監督(62)は呼ばれていない。

 習主席がこの時期に新しい文芸講話を発表し、「社会主義に奉仕せよ」などと政治的な方向性を示したのは、毛時代のように思想統一を図りたい思惑がありそうだ。このことが当分の間、多くの芸術家の創作意欲を萎縮させることは間違いないだろう。(中国総局 矢板明夫(やいた・あきお)/SANKEI EXPRESS

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