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発想と技と演出 懐石を堪能 梁山泊
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アイデアを凝らした12品の創作料理が並ぶ「八寸」。華やかさが意表を突く
アイデアを生かした創作メニューを織り込みながら、京懐石のコース料理を提供する梁山泊(りょうざんぱく)。漫画家の手塚治虫氏が生前は好んで訪れ、脚本家の倉本聰(くらもと・そう)氏(79)からは鴨料理について注文が寄せられるなど“文化人御用達”だ。学生時代に芝居に熱中したという主人の橋本憲一さん(65)は料理にも演出を凝らしグルメ客を喜ばせる。ウイスキーと京料理を組み合わせた「ウイスキー懐石」も評判を呼んでいる。
12品の小皿が直径約30センチの大皿に載せられた「八寸」の華やかさは意表を突く。長芋をつきあわせた磯の香りのする自家製のカラスミ、リンゴを芯に松葉ガニの身と白菜を巻きものにした「カニの白菜巻き」、豆腐を薫製にした「自家製豆腐のスモーク」、空揚げにしたヒラメを南蛮酢に漬け込んだ南蛮漬け…など、どれもこれも手の込んだ一品で味覚散歩を楽しませてくれる。
名物料理「ぐじの炭火焼き」はじっくり40分以上をかけて焼き上げる。ぐじは甘鯛といわれるが、橋本さんは「水深400メートルの海に泳ぐぐじは脂が乗って通常の甘鯛とは異なり、刺し身にしても蒸してもおいしい」とこだわる。ぐじは島根県大田漁港産で、シンプルな塩加減がほどよい。
カブラ蒸しは京料理の定番だが、梁山泊ではすりおろしたカブラに全卵を混ぜ合わせ、銀杏、ゆり根、鯛や兵庫県明石産の穴子、キクラゲを加えて蒸し上げる。吉野葛を使ったあんをかけワサビを添えて提供される。とろとろの軟らかさだがキクラゲの食感がアクセントとなり、寒い日には心温まる逸品。橋本さんの妻で女将の礼子さんは「外国人のお客さんに『白い雪の中に宝物が隠れていますよ』と説明すると喜ばれる」と話す。
「鴨の野焼き」は鴨肉を皮と身に剥がし、日本酒に漬け込んだ後、串刺しにして炭火で焼き、さらにフライパンで日本酒とともにアルコールを飛ばして焼いた労作だ。白髪ねぎと和がらしを添え、ピンク色が鮮やかな鴨肉の身とからっと仕上がった皮を一緒に口にすると味わい深い。実はこのメニュー、倉本氏から「食べたことのないような鴨料理を楽しみたい」とリクエストが寄せられ、橋本さんが皮だけを食べる中華料理の北京ダックをヒントにして考案した。
「焼きアワビ」は5ミリ程度にスライスしたアワビを、一枚ずつ備長炭の炭火で炙りながらいただく。アワビのキモを裏ごしし自家製しょうゆと混ぜ合わせた濃厚なタレにつけて口に含むと、コリコリとした食感が引き立ち刺し身とは異なる味覚が楽しめる。左党には酒のアテにもってこいだ。
揚げ物の皿には車エビやキス、タラの芽、フキノトウなどの天ぷらが盛りつけられる。食材それぞれの持ち味を生かすように衣は薄く揚げられており、山椒塩が上品な味わいを醸し出す。
大学で食品工学を学んだという橋本さんは、食品の化学的な変化などを読んで料理を創作する。サントリーウイスキーのチーフブレンダー、輿水精一氏と知り合った縁から、ウイスキーを組み合わせた懐石料理を商品化。例えば、すりおろしたカブラを大さじ1杯、ホットウイスキーに入れると、まるで日本酒の濁り酒だ。「そのミスマッチを楽しんでもらいたい」(橋本さん)というのが狙い。
手塚氏は亡くなる1989年まで、京都取材の際には松谷孝征マネジャー(現手塚プロダクション社長)を伴って、好んで梁山泊で食事を楽しんだ。その縁で、橋本さんの著書の表紙には、手塚氏が描いた似顔絵が使われた。
このほか児童文学作家の灰谷健次郎氏や、ジャーナリストの筑紫哲也氏(ともに故人)らもよく訪れたという。
酸っぱさにこだわった自家製の梅干しやちりめん山椒、みそ漬けなど土産品も取りそろえている。(文:巽尚之/撮影:恵守乾/SANKEI EXPRESS)