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サビーヌ ピガール写真展「TIMEQUAKES 時のかさなり」 生きていることの喜び 希望への祈り

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サビーヌ ピガール写真展「TIMEQUAKES 時のかさなり」 生きていることの喜び 希望への祈り

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架空の美術館やヨーロッパにある古城の広間を思わせる黒が印象的な空間で、過去と現在の時間が交錯し、人間のさまざまな記憶が呼び覚まされていく(提供写真)  時間とは方向を持った直線上の点というだけではなく、人間の心の営みを示してもいるようだ。未来に希望を抱くとともに、不安を覚えることもある。その未来も突如として現在となり、さらには過去へと瞬時に変わってしまう。過去は記憶として残されながら、遠いものとなり続ける。来るべき未来も、確かにあった過去も、すべて心の働きがもたらしたもので、現実にあるのは直感として捉えることのできる今しかない。未来に対しては予期が続々と用意され、過去は記憶として休むことなく積み重なり、時間はいくつもの層をなしている。

 東京・銀座のシャネル・ネクサス・ホールで開催中のサビーヌ ピガール写真展「TIMEQUAKES 時のかさなり」は、15~16世紀の肖像画に現代のポートレート写真を混ぜ込んで創作された50点の「写真絵画」が展示される。幾重にも折り重なった時間が示され、さまざまな記憶が呼び覚まされていく。ダビンチ、ラファエロにホルバイン、ファン エイク、そしてクルーエなど、気高い人間性をうたいあげるルネサンス期の巨匠たちの肖像画を作品の素材として敬意を込めて借用し、どこかで見たあの絵だと誰もが心に浮かべることができる。ここに私たちと同じ時代の空気を吸っている生身の人間の顔が古典の衣装をまとい、光の束として抽象的に表された東京の夜景の前に立ち現れているのだ。

 「私がこの連作で取り上げた肖像画は、すべて普遍の美をたたえています。人文主義、ヒューマニズムの時代を代表し、人間の尊厳を高らかに示し、文化の洗練を象徴しています。ここに現代人の顔や風景を合わせることで過去と現在を衝突させ、時のカオス、混沌を生み出そうとしました。人類とは全員が乗る車でどこかに進んでいるようなものだと考えることができます。時のかさなりの中で今を映し、私たちが現在どこに到達し、どこに向かっているのかも示すことができればと考えました」

 そう語るピガールは、今回の創作の出発点には3年前の東日本大震災の記憶があるという。

 「東京の有楽町で震災に遭遇し、衝撃的な経験をしました。それでも破壊や悲劇を暴力的に表したいとは決して思いませんでした」

 揺れる光で示された東京の明かりは、高度なテクノロジーで守られた東京という都市へのオマージュであり、生をポジティブに示すソフトな表現に努めた。

 「肖像画は病や戦の厄災から逃れたことに感謝の意を示し、祈りをささげるためのものでもあり、私の作品も生きていることの喜びを表し、希望や未来へのまなざしをたたえたものでありたいと願いました」

 肖像には、創作する人物と描き込まれた人物の視線が交錯している。そこに鑑賞者の視線が加わり、いくつもの時代の記憶が折り重なる。鑑賞者は創作者と視点を共有しながら描かれた人物の視線や目元からにじみ出る表情と対話を交わし、いつしか鑑賞者の心を映す鏡となっていく。

 「どんなに鮮明な記憶も、あいまいさを避けることはできません。不確かさを含むからこそイメージはさまざまに変化し、拡散していきます。素材となった肖像画はドイツ、イタリア、英国に北欧、もちろんフランスの作品とヨーロッパに広がっていますし、現代人の写真もオリエンタルな顔立ちなども配置して、個々の記憶とともに、人間という集団全体の記憶を喚起できるようにと考えました。作品に示したのは時代や文化のアレゴリー、象徴であり、人間性への賛辞です。生きることに問いを投げかけ、希望へとつながるものでありたいのです」(谷口康雄/SANKEI EXPRESS

 ■Sabine Pigalle 1963年、パリ生まれ。パリ大学で文学を学んだ後、ファッション写真の世界へ入り、ヘルムート ニュートンのアシスタントを4年にわたって務めた。言葉と画像の組み合わせに関心を抱くなど、造形写真の可能性を開拓する道に進み、該博な知識と洗練された技巧を駆使しながら、絵画の歴史、宗教や神話のモチーフ、個人的体験で起こる情動をはじめ幅広いテーマを対象に創作を展開している。2006年に東京で初めて個展を開催し、09年にはフランス大使館旧庁舎で開催された展覧会でも高い評価を得ている。

 【ガイド】

 ■サビーヌ ピガール写真展「TIMEQUAKES 時のかさなり」 2月9日(日)まで。シャネル・ネクサス・ホール(東京都中央区銀座3の5の3 シャネル銀座ビルディング4階)。(電)03・3779・4001。12~20時 入場無料・無休

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