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「海外陣取り合戦」食品業界で激化 サントリーが米酒造大手ビーム買収

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「海外陣取り合戦」食品業界で激化 サントリーが米酒造大手ビーム買収

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蒸留酒売上高ランキング=2014年1月13日現在、※小売金額ベース。IWSR2012データによる  サントリーホールディングス(HD)は1月13日、バーボン「ジムビーム」などで知られる米酒造大手のビーム社(イリノイ州)を買収すると発表した。今年4~6月をめどに、ビーム社の発行済み全株式を160億ドル(約1兆7000億円)で取得する。

 サントリーグループによる買収では過去最大規模で、日本企業による買収としてもソフトバンクによる米携帯大手スプリント・ネクステル買収などに匹敵する最大級の案件になる。

 買収によりサントリーHDはウイスキーなどのスピリッツ(蒸留酒)事業の売上高で世界3位に躍り出る。1株当たり83.5ドルで全株を取得し、費用は手元資金と借り入れで賄う。

 ビーム社は、「ジムビーム」のほか、スコッチやウオツカなどを幅広く展開する世界4位のスピリッツメーカー。サントリーHDも「山崎」や「白州」といったウイスキーブランドを持ち、買収によりスピリッツの商品力を強化する。

 サントリーHDは、ビーム社が持つ米国の販路などを活用するほか、両社のブランド力を生かして新興国での事業を強化する。ビーム社の2012年の売上高は24.6億ドル(酒税抜き)。

 ≪食品業界 激化する「海外陣取り合戦」≫

 サントリーHDが巨額買収を仕掛けた食品業界は近年、海外を舞台としたM&A(企業の合併・買収)の動きが加速する。少子高齢化を背景に国内市場の先細りが避けられない中、新興国をはじめとする海外市場に活路を求めているためだ。世界市場全体では巨大企業による寡占化の流れも顕在化しており、生き残りをかけた“陣取り合戦”が激しさを増している。

 人口減で国内縮小

 「これまで数千億円の買収案件はあったが、一段ギアを上げてきた」

 野村証券の藤原悟史アナリストは、サントリーHDによる今回の買収劇を、業界全体の海外シフトに向けた一里塚だととらえる。

 農林水産省によると食品の国内市場は、2009年時点の58兆円から20年には67兆円と約1.2倍に拡大する見込み。だが、少子高齢化による人口減少で、市場縮小は不可避だ。

 一方、同期間の海外市場は、340兆円から680兆円と倍増する見通しで、特にアジアの成長率は約3倍と試算される。

 こうした状況下で、食品各社は海外でのM&Aを活発化する。アサヒグループHDは11年に、ニュージーランド(NZ)の酒類大手インディペンデント・リカー・グループを約976億円で買収した。飲料以外でも、日清製粉グループが昨年(2013年)2月に豪州の食品大手グッドマン・フィールダーのNZ事業を約33億円で、味の素も先月(2013年12月)、トルコの調味料メーカー、キュクレを約29億円で買収した。

 成長市場に狙い

 企業がM&Aを積極化する背景には「海外市場の寡占化も無視できない」(民間調査会社)とされる。市場の縮小は先進国共通の課題で、各国の有力メーカーが新天地を求め、海外事業比率を高めている。スイスのネスレなど、収益の過半が海外事業という企業も少なくない。アジアをはじめとする成長市場は草刈り場の様相を呈している。

 昨年(2013年)は景況感の改善で業績を伸ばした企業も少なくないほか、日銀の金融緩和により金融機関から低利融資を受けやすい環境も整っている。今後も積極的な海外投資が広がる可能性がある。

 ≪蒸留酒世界3位 新興国拡販目指す≫

 約1兆7000億円と過去最大の巨費を投じるサントリーHDの米ビーム社買収は、世界トップクラスの酒類メーカーをめざすサントリーと、新興国市場の攻略に向けた後ろ盾を求めるビーム社の思惑が合致した形だ。

 サントリーHDは6400億円(2013年9月時点)と潤沢な手元資金を持つ。今回の買収費用は、手元資金と三菱東京UFJ銀行などからの融資で賄う。日米の金融緩和で資金調達が容易になっていることも、買収に弾みをつけた。

 ビーム社の2012年のスピリッツ(蒸留酒)売上高は世界4位の24.6億ドル(酒税抜き)。サントリーHDは世界10位(18.5億ドル)と蒸留酒事業の規模は劣るが、買収により蒸留酒事業で世界3位となる。創業事業のウイスキーで世界トップクラスに入ることは、サントリーの宿願だった。サントリーHDの佐治信忠社長は「世界でも類を見ない強力なポートフォリオ(組み合わせ)を持つスピリッツ事業が誕生する」と期待をにじませる。

 一方、飲料や食品なども合わせたサントリーグループ全体の売上高は1兆8000億円超とビーム社をはるかに上回る。競争の激しい新興国市場で拡販を目指すビーム社は、より規模の大きいサントリー傘下で事業拡大を狙った。

 ビーム社のマット・シャトック最高経営責任者(CEO)は「世界的な販売網拡大と商品開発力の強化により、競争優位を築くことができる」と評価した。(山沢義徳/SANKEI EXPRESS

 ■サントリーホールディングス 1899年創業の国内酒類食品大手。本社は大阪市。非上場企業で、創業家の資産管理会社、寿不動産(大阪市)が約9割の株式を保有している。傘下のサントリー食品インターナショナルが2013年9月に英製薬大手グラクソ・スミスクラインから2つの飲料ブランド事業を買収するなど、海外事業を拡大している。2012年12月期の連結売上高は約1兆8500億円。

 ■ビーム社 バーボンウイスキーのジムビームやメーカーズマーク、スコッチウイスキーのラフロイグなど、世界的に有名な蒸留酒の販売を手掛ける米酒造大手。2012年の売上高は25億ドル(約2600億円)。従業員数は約3400人で、ニューヨーク証券取引所に上場している。

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