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懐かしく新しいアート空間 VACANT
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≪さまざまな価値観、交流の場に≫
若者、高齢者、外国人観光客でにぎわう東京・原宿の竹下通り。その“奥座敷”にある「VACANT」(永井祐介代表)は、雑貨ショップ、カフェ、イベントスペースを一体化した芸術空間。多種多様な考えを持つ人々に交流の場を提供し、広大な東京に埋もれている新しい価値観の発掘、さらには創造へとつなげるべく、きっかけ作りに力を入れてきた。
1階のショップスペースに入ると、まず目を引くのが、棚という棚に飾られたラジカセの数々。1970~80年代にはどこの家庭にも1台はあったであろう懐かしのアイテムだ。カセットテープを簡単にダビングできる、当時としては画期的だったダブルカセット形式のものもあった。
永井代表は、ラジカセを中心とした家電収集家として著名な松崎順一さんと協力し、展示・販売を通して現代にマッチしたラジカセのあり方を提案している。例えば、店内のBGM。流し方はなかなか手が込んでいた。
「ラジカセにカセットテープを入れて音楽を再生するのではなく、iPadに入れておいた音楽をFMの電波で飛ばし、店内のラジカセ5台にキャッチさせています。店のレイアウトという観点からも、ラジカセは見栄えがいいんですよね。松崎さんの考えをまとめた著作も取りそろえています」
出発点は「人が交流する場所を作ろう」ということだった。幅広い層の人々が出会い、考えがミックスすることによりなされる、何か新しいものの創造-。永井代表はそこに面白さを見いだした。個性的なアイテムをそろえ、店を訪れる人々の心にクリエーティブな気持ちをかき立てる空間作りを目指した結果、ショップ、カフェ、イベントスペースが有機的に結びついた現在の形態が出来上がった。目と鼻の先は“人種のるつぼ”ともいわれる竹下通りというロケーションも、多様な人々を集めることに奏功するであろうと踏んでいた。
ショップスペースにある商品の半数以上を占めるのは書籍だ。松崎さんの著作のほか、独立系出版社の手による現代アート写真集やアート雑誌も多数取りそろえられている。いずれも担当者が欧米へ足を運んで仕入れたもので、「コンテンポラリー感」がただよう作品が選ばれている。ショップスペースにはカフェのコーナーがあり、テーブルでコーヒーをすすりながら商品を“座り読み”することもできる。せっけん、観葉植物、文房具、タオル、ロウソクといったこだわりのアイテムも、店内に独特の雰囲気をかもし出している。
2階のイベントスペースでは、展覧会、映画の上映会、ミニ音楽会が催されている。なじみのアーティストが自ら訪れ、2階のイベントスペースだけでなく、ショップスペースも使って展示会を開いたり、店のトークイベントに参加したりすることもあるそうだ。
床やテーブルには温かみを感じさせる木が用いられているが、天井や壁に目を向けると、スチール製の骨組みがあえてむき出しにされているなど、ざっくりと粗削りなテイストものぞかせている。「創造という観点から『未完成なもの』を意識した空間作りをしました」と永井代表。レイアウトも常に変えているそうで、その理由は「次々と来てくださるお客さんが常に心に変化を起こし、違った印象を持てるようにしたいから」。その名の通り「vacant」(無)から生み出される新しい価値から目が離せない。(高橋天地(たかくに)、写真も/SANKEI EXPRESS)