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【movie, or not movie】信念の行動が過ちだったら… 篠山輝信
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□映画「ランナウェイ 逃亡者」
≪若き日の情熱と理想≫
かつて日本でも学生運動というものがあった。僕はニュースか何かで当時の映像を見たことがあるし、学生運動を扱った作品もいくつかは知っている。きっと戦後の混沌と矛盾に、若者たちの純粋な情熱と理想がぶつかった大変な時代だったのだろう。でも、申し訳ないのだけれど僕が学生運動という言葉を聞くとき、その言葉はある種のファンタジーのように聞こえてしまうのだ。真面目で、懸命で、そして愚かな若者たちの物語として。そしてもっと正直に言ってしまうと、その時代に生きた人たちのことを僕は少し羨ましく思ってしまうときがある。大きな体制と闘い、時代を変える。そんな機運を感じながら、議論と批判に酔うことができたらさぞ気持ちがいいだろうなと。
しかしこの映画は問いかけてくる、自分たちが信じた正義がもしも過ちを犯したとき、私たちはその代償をどう払えばいいのだろうかと。
原作はニール・ゴードンの小説『The Company You Keep』。訳すと、「あなたがつき合う仲間」(間違ってたらごめんなさい)。実在した過激派ベトナム反戦組織“ウェザーマン”の幹部だった男は名前を変え、愛娘と平穏な生活を送っていた。しかしある事件をきっかけに彼の素性がばれてしまう。彼は30年前の殺人の潔白を証明するため、FBIや記者から追われながら、彼がかつてつき合っていた仲間たちを訪ねて行く。
僕のこの映画の大好きなポイントの一つは、無駄なアクションシーンや銃撃戦が全く無いところだ。僕の覚えている限り一発の銃声だって響かない(あったらごめんなさい)。そういう意味ではむしろこの作品はとても静かな映画だ。しかしながら、常に緊張感がありスリリングで次の展開が気になってスクリーンから目が離せない。僕はこういう映画がたまらなく好きだ。
CGがふんだんに使われてアクションも満載といった撮影技術が前面に出る作品ももちろん映画の醍醐味だけれど、丁寧に作りこまれたストーリーと人間ドラマのリアリティーこそが観客を惹きつける最大の力になることを、この映画の監督・製作・主演を務めたロバート・レッドフォード(77)は知っているのだ。
大した理由もなくなぜか人がたくさん死んでいく作品にすこしうんざりしてませんか?
この映画は過激な反戦運動に走った人間を一方的に批判している作品ではない。自分たちが信じた正義とは何だったのか、この映画の登場人物たちは30年たった今でもそれぞれがその意味を考え続けている。信念の行動をとったかつての若者たちが語る一言一言が、今の若者たちへのささやかなメッセージのように僕には感じられた。(タレント 篠山輝信/SANKEI EXPRESS)