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政治に翻弄されたサマーズ氏

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政治に翻弄されたサマーズ氏

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 【アメリカを読む】

 最大限の“抗議”だったのだろう。書簡を読みながら、そんな印象を禁じ得なかった。

 米連邦準備制度理事会(FRB)議長の後任人事をめぐり、最有力候補とみられたローレンス・サマーズ氏(58)が自らレースを降りた。バラク・オバマ大統領(52)に宛てた書簡で、サマーズ氏は「不本意ながら辞退する」と胸中を吐露。その言葉には無念さと、政府・与党をまとめきれなかった大統領へのわだかまりがにじんでいた。

 政権運営にしこり

 大詰めに近づくFRBの次期議長レースに、思いもよらない展開が待っていた。最有力候補だったサマーズ元財務長官が、自らへの高まる批判に“抗議”の辞退。対抗馬で女性のジャネット・イエレンFRB副議長(67)との熾烈(しれつ)な指名争いは政権・与党にすら深い亀裂を生み、オバマ大統領の今度の政権運営にしこりを残しそうだ。

 米国を代表する経済学者で、ハーバード大学長や財務長官など華麗な経歴を積み重ねてきたサマーズ氏が集大成として望んだポストが、世界経済に多大な影響力を持つFRBの議長職だった。サマーズ氏がいまなお強い影響力を持つ米財務省の関係者は「サマーズ氏の後半生のキャリアを飾る最後のピースになるだろう」と指摘していた。

 サマーズ氏自身も水面下で盛んに動き回っていた。現在2期目のベン・バーナンキFRB議長(59)が「3期目は望まない」との意向を示したと米メディアが報じたのは昨秋。くしくもほぼ時を同じくして、サマーズ氏が後任に意欲を示しているとの報道が流れた。

 目前だった大願成就

 実際、私が耳にした限りでも、サマーズ氏は財務省時代の上司のロバート・ルービン元財務長官(75)や部下だったティモシー・ガイトナー前財務長官(52)に接触し、しきりにホワイトハウスにアプローチをかけている。サマーズ氏はオバマ政権1期目は国家経済会議(NEC)の委員長として金融危機からの脱却を支え、大統領には「恩」も高く売ってあった。そのかいあって大統領もサマーズ氏指名に傾き、大願成就はもはや目前と思われた。

 しかし、逆風は想像以上だった。与党民主党が推進する金融規制について、サマーズ氏は慎重な点がネックになった。上院民主党でイエレン氏を推す議員が署名活動を展開し支持が3分の1を超えた。さらに過去の女性蔑視発言などへの批判が台頭。大統領はサマーズ氏を弁護したが、先週末に一部メディアが「サマーズ氏を指名する方向で最終調整」と報じ、逆風は一層強まる。人事を承認する上院銀行委員会で民主党議員がサマーズ氏の不支持を相次いで表明。大統領が指名しても承認が危ぶまれる情勢になっていた。

 誤算のシリア論議沸騰

 サマーズ氏にとっての誤算は、米国を取り巻く政治・外交情勢の変化だった。議長人事が大詰めを迎えたまさにその矢先、シリアの化学兵器の使用疑惑をめぐる米国の軍事介入論議が沸騰した。ホワイトハウスのスタッフは民主党議員の説得にエネルギーを割かれ、サマーズ氏指名に向けた環境整備は遅々として進まなかった。

 さらに、迷走する与野党の財政協議もサマーズ氏の前に壁となって立ちはだかった。財政再建へ増税を求める大統領に対し、野党共和党は歳出削減を訴えて対立。今月(9月)中に予算案を可決できなければ、政府機関の一部閉鎖に追い込まれる。オバマ氏はこの上、議会との火種を抱え込むのは得策ではないと判断したようだ。

 態度が尊大と批判されることも多いサマーズ氏だが、「ハーバードの俊才」といわれたその明晰(めいせき)な頭脳と識見は世界に鳴り響く。日本の政府関係者は「サマーズ氏が会合に姿を見せるだけで、人だかりができる」とその強いオーラに驚く。

 財務省で同僚だったカリフォルニア大バークレー校のブラッド・デロング教授(53)は「問題が起きた際、既成概念にとらわれない彼の強みが生きる」と、FRB議長でも強いリーダーシップを発揮すると期待していた。

 しかし、政治に翻弄され続けた結果、サマーズ氏の夢は霧散した。バーナンキ議長は「FRBは独立した組織」として議長人事への政治的影響を否定するが、サマーズ氏をめぐる軋轢(あつれき)がワシントンに禍根を残す結果となったのは間違いなさそうだ。(ワシントン支局 柿内公輔(かきうち・こうすけ)/SANKEI EXPRESS

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