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【にほんのものづくり物語】甲州印傳

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【にほんのものづくり物語】甲州印傳

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 ≪伝統で培われた技を新しい発想に生かすと「ものづくり」の可能性は広がる≫

 世界遺産の富士山を抱く山梨県に、なめした鹿皮に漆で模様付けをする伝統技法「甲州印傳(いんでん)」があります。しなやかな鹿皮に、繊細で立体感のある漆の紋様が独特の輝きを放つ美しさ。使い込むほどに手に馴染(なじ)む深い味わいは、現代の人々の心をも魅了するようです。今回は甲府市で家業を継ぎ、若い感性でオーダーメードの印傳も手掛ける「印傳の山本」山本裕輔氏を訪ねました。

 400年以上の歴史がある山梨県の伝統的工芸品「甲州印傳」。古くは戦国時代、武田信玄が印傳の袋に甲冑を入れ持ち運び、そこから郷土品「信玄袋」の名が広まったという逸話もあります。江戸時代には、巾着や煙草(たばこ)入財布などの袋ものとして、小粋な柄とともに人々に親しまれ、「東海道中膝栗毛」にもその名が登場しています。この一風変わった名の由来は、寛永年間に来航した外国人が、幕府に献上したインド産の皮の装飾品に由来するとも言われています。

 甲州印傳の製造には、染色された鹿皮を大まかに裁断する「荒裁ち」、皮に型紙を置き、漆を均等に付けたへらで皮に漆をすりこむように載せていく「漆付け」、そして乾燥。出来上がった皮は、縫い代を薄くする「荒漉き」を経て縫製されるという工程があります。皮に均等に漆文様を施し、美しい立体感を仕上げる感覚こそ、印傳の魅力を育んできた独自の技法です。また、模様の凹凸感を均等に仕上げる縫製にも熟練の職人の技が必要とされます。

 この全ての工程を一人で仕上げることができる、甲州印傳で唯一の伝統工芸士を父に持つ裕輔氏。中学生時代に抱いたこの仕事への憧れを持ち続け、自身も伝統工芸士になることを目指して、大学卒業と同時に父に弟子入りし、現在は家族全員で家業を行っています。

 敷居が高いと感じられがちな「伝統工芸品」ですが、意外にも30年前から既製品だけではなく、オーダー製造も手掛けていたそうです。裕輔氏は若い感性で時代にあった商品を次々に企画。最近では、ブログやツイッターを活用し顧客の若返りも。30~40代の顧客が80%にも上るスマートフォンカバーなど、より現代の暮らしに身近なオーダーも手軽に楽しむことができるようになりました。

 染色した鹿皮は20色、漆は4色、紋様のパターンは伝統的なものから現代的なものまで200柄以上。中には世界遺産富士山の柄も。コンセプトは大量生産ではなく、大切に長く愛していただくことにあるため、あくまでもフェイス トゥ フェイスの繋(つな)がりを大切に、来店をしていただくことが基本です。「普段使うもの、大切にしたいものを印傳で」という発想で、「何でもできますよ!」とあえてハードルをあげて、言い切る裕輔氏。そんな心意気から香りのアイテムとのコラボレーションも実現し、ますます世界を広げていくようです。

 裕輔氏の目標は同世代に「甲州印傳」に携わる仲間を広げていくこと。山梨県では、小学生のカリキュラムに工程見学を組み込むなど、地場作業への関わりも検討されています。地元の学生たちは、卒業時に甲州印傳の名刺入れを持つ人も多いと聞きます。地域に愛され、育まれ、継承されていく「にほんのものづくり」。新しい感性が生み出す、これからの展開が楽しみです。(SANKEI EXPRESS

 ■山本裕輔 1982年山梨県生まれ。大学卒業後、伝統工芸士である父・山本誠氏に弟子入り。現在は弟とともに、伝統を受け継ぐ者として、技に磨きをかける日々を送っている。

 入社2年目に「陽陰の桜」で(財)伝統的工芸品産業振興協会主催の第31回全国伝統的工芸品コンクールに初入選。以後、第33、34回同コンクール入選。

 また、携帯ゲーム会社「コロプラ」と提携し、コラボ商品の企画・製作を行い、新たな客層へのアプローチにも成功。

 【問い合わせ先】

 ■有限会社 印傳の山本 〒400-0862 山梨県甲府市朝気3丁目8の4 (電)055・233・1942。www.yamamoto-inden.com

 ■香音 甲州印傳 香袋(参考商品)。株式会社グランデュール (電)045・847・1683。www.grandeur-gd.co.jp/

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