年末調整の書類が配られる季節になりました。生命保険料や住宅ローン控除については毎年書類を提出している人が多いのではないでしょうか。経済コラムニストの大江英樹さんは「最近この2つに加えて『小規模企業共済等掛金控除の証明書』を提出するケースが増えてきています。ところが、その証明書の圧着ハガキを開かずに捨ててしまう人が実際にいるのです」といいます--。
そもそもなぜ年末調整が必要なのか
毎年、11月頃になってくると会社の総務や庶務の係から「年末調整をするために必要な書類なので、記入して○日までに提出して下さい」と言われ、用紙が配られます。みなさんの多くも恐らくその経験があるでしょう。
実際に年末調整の場合は、還付すなわち税金が戻ってくる場合が多いので、ちょうど年末のボーナスが支給された後、何だかプラスアルファのおまけみたいな感じで税金の戻りがあることに何とも言えない幸せ感をもつ人も多いでしょう。
そもそも年末調整というのは一体どういうものなのでしょう。勤め人の場合、会社は毎月の給料から所得税を天引きします。これが「源泉徴収」ですね。給与明細を見ると所得税や住民税が差し引かれているのでご存じだと思います。ところが毎月の給与から引かれる所得税はあくまでも概算でしかありません。その理由は向こう1年間の間に給与や賞与の金額が変わることもありますし、結婚や出産、あるいは保険への加入や住宅購入といったことによって当初は予定していなかった「所得控除」が発生するからです。
アメリカにはないシステム
したがって、まれに追加徴収ということもありますが多くの場合は税金の額が調整され、戻ってくるのです。これは一見とても便利なシステムのように思えます。自分は何もしなくても必要書類だけ提出すれば会社が全部やってくれるわけですから、確かに便利でしょう。
ただ私個人の意見としては、これはあまり良い仕組みだとは思っていません。例えばアメリカでは、年末調整というシステムはありませんので、給与から源泉徴収された後に自分で申告をして税金の還付手続きを受けなければなりません。面倒なように思えますが、実際にはこれによって税や社会保険の仕組みを理解することができます。これは言わばお金に関するリテラシーを高めることになります。それに政治家の役割というのは究極のところは国民の税と社会保険の負担と給付を考えることですから、それらに高い関心を持てば必然的に政治にも関心を持つようになるのです。
最近提出が増えている第3の添付書類
とは言え、現実には「年末調整」というシステムがあるわけですから、その仕組みをきちんと理解しておくことは大切です。一般的に年末調整によって税金の額が変化する代表的なものは(1)扶養家族の情報、(2)生命保険料等の控除、そして(3)住宅ローン控除といったものです。
このうち、(2)は保険会社から送られてくる「控除証明書」、(3)は銀行から送られてくる「住宅取得資金の借入金年末残高証明書」を添付して会社に提出します(生命保険のうち、保険料が給与天引きの場合は提出が不要です。また住宅ローン控除は初年度が確定申告で、年末調整は2年目からとなります)。
このあたりはほとんどの人が毎年実際に提出していると思いますので、あらためてお話する必要は無いと思います。最近はこれら2つに加えて「小規模企業共済等掛金控除の証明書」を提出するケースが増えてきています。あまり聞き慣れない名前ですが、これは一体何かというと、最近利用者が急増しているiDeCo(個人型確定拠出年金)の掛金に対して所得控除を受けるために必要な書類です。iDeCoの加入者は2021年の8月末時点では210万人を超えています。サラリーマンや公務員での加入者も180万人以上いますので、これを読んでいる読者のみなさんの中にも恐らくiDeCoの加入者がおられることでしょう。