子供に広がるコロナ後遺症 「すぐに疲れる」…3歳児も
新型コロナウイルスの感染拡大「第5波」で、回復後も後遺症を抱える患者が急増している。不調は成人のみならず、幼い子供にも広がっているが、周囲の理解を得られずに見逃され、悪化するケースもある。治療法はいまだ手探りで、最前線で患者を診続ける医師は、出口の見えない闘いに焦燥感を募らせている。
「患者が増えすぎて、全く手が足りない。いくら頑張っても焼け石に水とさえ思える」。新型コロナの後遺症外来を設置する「ヒラハタクリニック」(東京都渋谷区)の平畑光一院長はこう言って頭を抱える。
第3波だった2月ごろは、外来患者が多くても1日90人程度だったが、感染力の強いデルタ株が広がった7月以降は、150人を超える日もある。朝10時前から深夜3時過ぎまで診療を続けても、希望者全てを診きれない。
若年化の傾向も顕著だ。約半数は30~40代の働き盛りだが、10代や10歳未満も目立つようになり、3歳児もいる。小学生ぐらいまでは「いつもより元気がない」「すぐに疲れる」といった比較的軽微な症状が多いが、懸念材料もある。
感染しても軽症や無症状で済むことが多い子供の後遺症は、家庭内で見落とされたり、軽視されたりしがちだ。周囲の大人が「だらけてないで勉強しなさい」などと発破をかけてしまうことも危惧される。
後遺症は無理に心身に負荷をかけた後に悪化することがあり、介護が必要になるケースも後を絶たない。同クリニックで寝たきりに近い状態と判断された患者は800人を超える。部活の運動ができなくなった高校生や、寝たきりに近い状態となって通信制の高校を選ばざるを得なくなった中学生もいたという。
「風邪症状の後、子供の様子がいつもと違うなと感じたら、コロナの後遺症を疑ってみてほしい」。平畑氏はそう呼びかける。
新型コロナ後遺症の治療は症状に応じた対症療法が中心となる。同クリニックでも患者の体質や症状に合わせて治療法を判断。漢方薬処方などのほか、耳鼻科で受けることが可能な「上咽頭擦過(じょういんとうさっか)治療」をほとんどの患者に勧めている。
「後遺症を抱える患者はのどの奥にある上咽頭と呼ばれる部分に炎症が起きているケースが多い」(平畑氏)ためだ。自律神経と密接な関係があるこの部位に塩化亜鉛という成分の薬を塗ることで、炎症を抑える効果が期待できる。
実際に嗅覚や味覚の回復、倦怠(けんたい)感、頭痛、せき、息苦しさ、体の痛み、思考力の低下といった多様な症状の軽減につながることが確認されている。ただ、治療を繰り返し受ける必要があり、痛みも伴うため、ためらう患者も少なくない。
後遺症がある人にワクチンを接種した結果、5割超の人で倦怠感や息切れなどの症状に改善が見られたとする海外の研究発表があり、同クリニックにも同様の改善報告が寄せられている。一方、接種後も後遺症の症状に「変化はない」「悪化した」との声もあり、ワクチン接種と後遺症の改善効果の因果関係は明らかになっていない。
平畑氏は「ワクチン接種の目的は感染と重症化の予防。後遺症の改善はあくまで副次的なものとして捉えるべきだ」と指摘。その上で、「新型コロナは一度感染しても再感染の恐れがあり、後遺症を抱えれば症状が一生続くことも考えられる。ワクチンを打てる人には、ぜひ接種してもらいたい」と力を込めた。(三宅陽子)