共働き世帯の増加に伴い、住宅ローンを夫婦の収入に基づいて借りたいという相談が増えています。不動産会社に夫婦それぞれ住宅ローン控除の適用を受けたほうが得だと言われることが多いようですが、注意すべきことがあります。どのようなことに気をつけるべきでしょうか。
■夫婦それぞれ住宅ローンを借りることの是非
夫婦で家を買う場合、1人の収入で住宅ローンを借りるのか、2人の収入で住宅ローンを借りるのか選ぶ必要があります。
住宅ローンの審査は借り入れ希望額に対して、どの程度の支払余力があるかを確認します。支払余力があるとみなされる働き方は、正社員と公務員です。収入が安定しない芸能人、スポーツ選手は一時的に収入が高くても住宅ローンの審査では不利になります。また個人事業主は収入が多くても、節税のために経費を過剰に計上し所得を低くしていると住宅ローン審査では収入が低い人と判断されますので要注意です。
フラット35という住宅ローンの場合、審査基準が開示されています。その1つに返済比率があります。フラット35の返済比率は住宅ローンを含む借入の年間返済額が収入の30%か35%(収入による)を超えなければ形式上は審査に通ります。※他にも審査はあります。
年収1000万円であれば、返済比率を35%とした場合、年間350万円の住宅ローン返済まで借り入れが可能となります。例えば1億円の住宅ローンを金利1.2%で35年返済として借り入れた場合、毎月の返済額が29万円となり、年間返済額はほぼ350万円となります。年収1000万円の世帯は1億円の住宅ローンを借りられることになるのです。
1人の年収が1000万円の場合と夫婦の世帯年収が1000万円の場合、何が異なるのでしょう。それは、子どもが生まれたタイミング、自身の病気や親の介護で働けなくなったり失業した場合に明らかになります。
■共働き世帯は片働きになった場合も想定しておく
夫婦ともに年収500万円の場合、子供の出産・育児に伴い女性が産休・育休を取得すると、収入が減少します。育児休業給付は育児休業開始から半年は従来の収入の2/3、半年以降は1/2の支払いとなります。
すると、育休前半は世帯年収が835万円相当になり、育休後半は750万円相当になります。年収750万円の状態で、年間350万円の住宅ローンの支払いは非常に厳しいでしょう。
ただし、育休期間中であっても、手元に豊富な貯蓄があれば蓄えの中から住宅ローンの返済を続けることができますので問題ありません。反対に貯蓄がゼロに近い状態であれば、住宅ローンの支払いができなくなる可能性が高まります。
■産休、育休の給付金は非課税のため住宅ローン控除の効果がなくなる
子どもが生まれた後に受け取ることのできる出産手当金と育児休業給付金はそれぞれ非課税となっています。従って所得税と住民税の課税対象となりません。
住宅ローン控除は所得税を還付し、還付しきれない場合は住民税が減額になります。しかし、所得税がゼロ、住民税がゼロの場合は何の効果も生みません。
上記を踏まえると、これから妊娠・出産、産休・育休を控えている場合は、夫婦での住宅ローン控除適用を狙う場合、子どもをどのタイミングで産むか、育休・産休を何回取得するかなどを考えておく必要があります。住宅ローン控除期間中に退職する場合もあるでしょうから、税金面で得になりそう、という理由だけで夫婦それぞれが住宅ローンを借りることは避けたほうがいいでしょう。
不動産会社やハウスメーカーに勧められた場合、単に予算を増やすために情報提供していることがほとんどです。家計の状況をみてアドバイスしているわけではありませんので、気になる場合は、夫婦で借りる場合のメリットとデメリットまでアドバイスしてもらえるよう頼みましょう。