マスク姿消えた英ロンドン 感染激減の裏にワクチン接種作戦か
新型コロナウイルスのワクチン接種で先行する英国やイスラエルで、感染者数が大幅に減少している。英国は欧州連合(EU)に縛られずワクチンの調達や承認を独自に進め、昨年12月から日米欧に先駆けて使用を開始した。医療資格のないボランティアに研修を経て注射を任せる措置をとるまでして接種を進めた英国の取り組みは、日本など感染抑制に苦しむ各国にも参考になる。(ロンドン 板東和正)
街から消えたマスク
「マスクをつけた人がほとんどいない…」
英首都ロンドン中心部の飲食街でパブ経営者の男性(59)は17日昼、目の前の光景に驚いた。
この日は感染者数の減少によりパブやレストランの屋外営業が12日に再開してから最初の週末。マスクを外した市民が談笑したり、店外のテーブルで食事をしたりする姿が目立った。感染力の高い変異株が拡大した昨年12月~今年1月は大半の市民がマスクをして歩いていただけに「数カ月でロンドンの光景は一変した」(英感染症専門家)との声が上がる。
感染者減少の背景には、英政府が1月からイングランド全域で実施した都市封鎖(ロックダウン)や国を挙げた迅速なワクチン接種があるとみられる。新型コロナウイルスの感染者数や死者数の激減や約5割近くのワクチン接種率で国民の安心感も広がっている。
ジョンソン英首相は今月13日、「接種が感染者の減少に貢献している」と述べた。
英国は今月、50歳以上への1回目の接種を完了。英政府が米製薬大手ファイザー製ワクチンを1回接種すると感染リスクを7割以上低くできるとの研究結果を公表するなど、効果も証明されている。1月上旬に5万人を超えた1日当たりの感染者数は4月20日には約2500人に減った。1月下旬に千人以上だった死者数も同日、約30人となった。
EU離脱で迅速調達
英オックスフォード大の研究者らが運営する「アワー・ワールド・イン・データ」によると、英国で少なくとも1回の接種を受けた割合は19日時点で48・7%と世界6位。60%を超えて3位のイスラエルより低いが、米国の39・6%や欧州連合(EU)の19・1%を大きく引き離した。
英国の接種率が高い理由として、昨年1月末にEUを離脱した英国が独自にワクチンを調達・承認したことが挙げられる。
ジョンソン政権は、価格よりも早期のワクチン調達を優先して製薬大手と交渉。EUより約4カ月早い同年7月にファイザーと契約した。EUは加盟国への配慮から低価格での調達を重視し出遅れた。
英国の規制当局、英医薬品・医療製品規制庁(MHRA)はファイザーの承認手続きで、臨床試験(治験)の段階からデータの提供を受けて審査期間を大幅に短縮する異例の措置をとった。通常の承認手続きに近い手法をとった欧州医薬品庁(EMA)に比べ、承認を数週間早められた。
民間人も接種に従事
さらに、英政府はワクチン接種の会場や人員を充実させ、接種のスピードを上げた。サッカーのスタジアムや劇場などを活用して接種会場を拡充することで、全国民が自宅から10マイル(約16キロメートル)以内で接種できるようにし、昨年11月から医療資格のないボランティアを募集し、注射させている。
「注射ボランティア」への参加は、18~69歳で大学進学に必要な学業修了認定や犯罪歴がないことなどが条件。約10時間のオンライン学習で応急処置の方法やワクチンの特徴を学び、模擬注射などの実技研修を終えて合格となる。すでに約3万人のボランティアが育成された。
10人以上に接種した牧師ジョン・ワトソンさん(51)は「医療従事者だけで膨大な人数に接種するのは大変だ。加速するには、医療経験のない市民の手も借りる必要がある」と語った。