未知の天文現象「ブラックホール」と「ビッグバン」
ブラックホールとビッグバンという宇宙においてもっとも極端で根源的な現象は、いまではその存在が明らかとなっていますが、それらが広く知られるきっかけとなったのは、1960年代に起こったある偶発的な発見でした。
いまから一世紀前の1915年、アインシュタインは一般相対性理論を発表しました。するとその公表直後、カール・シュヴァルツシルトという天文物理学者が、その特殊な解のひとつとして「ブラックホール」の存在をはじめて示唆します。さらに1927年には、同じく一般相対性理論から導き出したひとつの解釈として、ジュルジュ・ルメートルが「ビッグバン」という概念をはじめて発表しました。
アインシュタイン自身はブラックホールとビッグバンのどちらに対しても否定的で、その存在を認めようとはしませんでした。しかし1964年、米国のベル研究所における偶然ともいえる観測によってビッグバンの存在がはじめて具体的に示唆されます。また、1965年に打ち上げられた軍事衛星による偶発的なガンマ線の補足は、その後、ブラックホールの解明につながりました。
今回は、それらの発見の契機となった偶然ともいえるふたつの出来事をご紹介します。
偶然捕捉された宇宙からのマイクロ波
1964年、米ニュージャージー州にあるベル研究所に勤めていたアーノ・ペンジアスとロバート・ウィルソンは、新しく開発された天文観測用の高感度アンテナを設置しているとき、不可思議な電波ノイズに気づきます。あまりに強い電波だったため、ふたりはそれが地上から発せられた電波による干渉であり、おそらくニューヨークが発生源だろうと予想しました。しかし、調査してもその発生源は見つかりません。アンテナ自体を調べると、そこにはハトの糞がたくさん付着していました。これが電波干渉の原因だと考えてアンテナを掃除しますが、やはりノイズは消えません。
電波干渉の原因と成り得るすべての要素を排除したペンジアスとウィルソンは、宇宙から飛来しているとしか考えられないこの謎の電波を論文にまとめ、世界に公表します。結果、これが史上はじめて「宇宙マイクロ波背景放射」の検出を報告した論文となりました。
「宇宙マイクロ波」とは、電子レンジやスマートフォンにも使用される電波の一種であるマイクロ波が、宇宙から飛来することを意味します。「背景放射」とは、それが宇宙のあらゆる方向から降り注ぐことを意味します。
この発見に先立ち、理論物理学者ジョージ・ガモフは、「ビッグバンの発生時に放出された光が、現在においてはマイクロ波として観測できるはず」と予告していました。つまり、ペンジアスとウィルソンが世界ではじめて観測したのは「ビッグバンの残り火」だったのです。その観測論文が評価されたふたりは1978年、ノーベル物理学賞を受賞しています。