スマートフォンのアプリで配車を依頼、エリア内の乗降地点を自由に移動できるオンデマンド交通「しんゆりシャトル」の実証運行が17日、小田急線の新百合ヶ丘駅(川崎市麻生区)周辺で始まった。人工知能(AI)などを活用した新しい交通サービス「MaaS(マース)」分野で小田急電鉄が川崎市や小田急バス、川崎交通産業、神奈中タクシーと連携。地域のコミュニティバスとタクシーの特性を兼ね備えた次世代の公共交通機関が誕生した。「しんゆりシャトル」は500円で独立したキャプテンシートを備えた高級ミニバンに乗車でき、ちょっとした“VIP”気分を手軽に堪能できそうだ。
丘陵地の新たな交通機関に
「丘陵部で坂道の多い住宅エリアという立地特性をとらえた『ラストワンマイル交通』の提案で、自家用車から公共交通機関へのシフトによる道路混雑緩和なども狙っています」
オンデマンド交通の「しんゆりシャトル」について、小田急電鉄の担当者はこう意気込む。「ラストワンマイル」とは、最寄り駅やバス停などの交通結節点から自宅までの最終区間。多摩丘陵の一角に位置する新百合ヶ丘は高度経済成長期から住宅地の開発が進み、商業施設が充実するベッドタウンとして発展してきた。ただ丘陵地ゆえに坂道も多く、バス停から離れた場所に住む人は、タクシーや自家用車に頼らざるを得ないケースもあったようだ。
「しんゆりシャトル」は乗り合いの路線バスとタクシー双方の特性を兼ね備える新しい公共交通機関だ。利用者のリクエストに応じて運行される点はタクシーに近い。新百合ヶ丘駅周辺の対象エリア内には、約500カ所の乗降地点「ミーティングポイント」が設けられた。「しんゆりシャトル」では、この乗降地点間を500円(子供半額)で自由に移動できる。毎日のように利用したい人には定期券も用意されている。1カ月定期券は2万1000円(同)。午前7時から午後10時まで運行。高齢者の通院や買い物、塾に通う子供の送迎などでの活用も期待される。
一方、タクシーと異なるのは、同じ方面へ向かう乗客が相乗りで利用することになる点だ。場合によっては、タクシーのように最短距離では目的地へ向かわず、同乗する利用者の乗降のために回り道する可能性もあるが、対象エリア内であれば、どこまで乗っても1乗車につき500円で変わらない。地域のコミュニティバスとタクシーの中間に位置する公共交通機関といえそうだ。
「アルファード」のキャプテンシート
運行が始まった17日、実際に「しんゆりシャトル」を利用してみた。まず、小田急電鉄が提供するMaaSアプリ「EMot(エモット)」をスマホにインストール。自分のクレジットカードを登録する。次に「デマンド交通」のボタンをクリックし、「しんゆりシャトル」の予約画面を選択。表示された地図上で、出発地と目的地、利用人数を選択すれば、クレジット決済画面に代わり、支払いが完了する。配車の依頼から運賃の支払いまで、アプリの「EMot」で難なく行えた。ほどなくして、指定した出発地に姿を現した「しんゆりシャトル」。
車両は高級ミニバンのトヨタ「アルファード」だった。利用者は独立したキャプテンシートの並ぶ後部座席に乗り込む。まるで上級管理職やVIPにもなったような気分、といったら少し大げさだろうか。いずれにしても、ワンコインの500円でキャプテンシートに身を沈め、ゆったりと移動できるのはうれしい。「しんゆりシャトル」では、このアルファードが同時に最大4台運行されている。