宇宙開発のボラティリティ

宇宙探査ローバーの走行レース JAXA×トヨタ「ルナ・クルーザー」への期待

鈴木喜生
鈴木喜生

トヨタとJAXAが共同開発する月面探査ローバー

 2019年3月、トヨタ自動車とJAXA(宇宙航空研究開発機構)は、月面で運用する有人与圧ローバー「ルナ・クルーザー」を共同で開発することを発表しました。このローバーは全長6m、マイクロバス2台分ほどの大型車両であり、居住空間は四畳半ほど。搭乗員2名が約30日間滞在でき、緊急時には4名まで滞在可能というコンセプトで開発が進められています。

 月の表面は、昼の温度が120度、夜はマイナス170度まで冷え込み、さらに放射線が降り注ぐためゴムが使用できません。そのためタイヤは金属製になる予定ですが、その開発はブリヂストンが担当しています。

走行距離がひとつの成果に

 これまでに何機もの探査ローバーが月と火星に送り込まれました。それぞれのローバーはいくつもの機器を搭載し、「人類史上初」となる発見をもたらすために天体を調査してきましたが、そうした成果とは別に、探査ローバーの「総走行距離」にも世界の関心が集まっています。

 トヨタとJAXAが2029年に打ち上げを設定しているルナ・クルーザーは、月面で1万km以上の走行を可能にすると公表されており、それが実現すれば、これまでの探査ローバーによる総走行距離の記録を大幅に更新することになります。

 無事に着陸させるだけではなく、探査ローバーがどれだけ長期に渡って稼働したか、どれだけ長距離を走行したかは、各国の技術力を証明する手段であり、宇宙開発における優位性を示すバロメータでもあるのです。各国はいわば、探査ローバーの「マラソンレース」で技術を競い合っているわけです。今回はルナ・クルーザーへとつながる宇宙探査ローバーの系譜を紐解きます。

過去最長距離を走行した「オポテュニティ」

 これまでに打ち上げられた探査ローバーのなかでもっとも長い距離を走行したのは、NASA(米航空宇宙局)が2003年に打ち上げた無人火星探査ローバー「オポテュニティ」です。2004年1月の着陸から2018年6月の通信途絶までの14年5カ月で、総距離45.16kmを走破しています。設計寿命は3カ月間でしたが、それを大幅に超えて運用され、最後は砂嵐によって太陽パネルに砂がかぶって発電できなくなり、運用が停止されました。

ソ連の脅威的な月探査ローバー「ルノホート」

 オポテュニティが2013年に記録を更新するまでの間、走行距離の最長記録を保持していたのは旧ソ連の無人月面探査ローバー「ルノホート2号」で、その打ち上げは1973年。4カ月半の間に39kmを走破。41年間にわたって1位の座を占めました。

 当初ソビエトは、ルノホート2号の総走行距離を37kmと公表していましたが、NASAのオポテュニティがその記録を更新した1カ月後、ロシアは「ルノホート2号の総走行距離は、実は約42kmだった」と訂正。これはNASAが2009年に打ち上げた月探査機が軌道上から撮影したデータをもとに算出した結果でしたが、NASAとロシアが協議した結果、ルノホート2号の公式な総走行距離は「39km」とされ、後日、あらためてオポテュニティが記録を更新したのです。

史上初のローバーは、ソ連の「ルノホート1号」

 世界ではじめて地球以外の天体を走行したローバーは、前述のルノホート2号の2年半前に打ち上げられたソ連の「ルノホート1号」であり、それはアポロ13号が奇跡の帰還を果たした5カ月後のことでした。有人月面探査においてアメリカに敗れたソビエトは、「無人探査機でも月の探査は十分に可能」であることを証明するため、ルナ17号にルノホート1号を搭載して月へ送り込んだのです。

 ルノホート1号は全長170cm、幅160cm、高さ135cmで、バスタブのような形状をした8輪車であり、質量は756kg。ソーラーパネルとモーターによって駆動し、2速のギヤを装備していました。4台のテレビカメラやX線望遠鏡、宇宙線検出器などを搭載し、地球からの遠隔操作が可能で、約9カ月間で10.54kmを走破しています。

アポロが月へ運んだ史上初の有人探査ローバー

 ソ連がルノホート1号と2号を、1970年から1973年にかけて打ち上げたその間、NASAは探査ローバーを3台、月面に送り込んでいます。「LRV」(ルナー・ロービング・ヴィークル)と呼ばれるこの探査ローバーは、史上初の有人探査ローバーであり、ポルシェが設計し、ボーイングが製造して、アポロ15号から17号の月面着陸機にそれぞれ1台ずつ搭載されました。

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