FemTech(フェムテック)という言葉を、最近、耳にする機会が多い。
これは、Female(女性)とTechnology(テクノロジー)を足し合わせた新語で、女性の月経や妊娠、出産に関する医療課題をテクノロジーで解決しようという動きを指す。欧米では市場が拡大傾向にあり、日本でも近年、気運が少しずつ高まっている。
そんなフェムテック事業で注目を集めているのが、オンライン診療。実際にクリニックに足を運ばなくても、オンラインで診察や相談ができるサービスである。
そのひとつ「スマルナ」に現状を取材してみた。2018年6月にスタートしたスマルナは、現在までに23万件のダウンロードがあり、月間の診察は約2万件にのぼる。
スマホやパソコンで会員登録をすれば、婦人科に関する診察、処方、薬剤(ピル)のお届けがすべてオンラインでできる仕組みだ。薬剤師、助産師などの専門家による相談の回答は朝10時から夜10時までになっており、忙しい女性の人気を集めている。
診察までの流れは簡単だ。まず、メールアドレスで会員登録をする。運転免許証、健康保険証などの本人確認書類を送信。オンライン上で20問程度の問診に回答すれば、希望の医師を選んで診察の予約ができる。
その後、医師がオンライン上で診察を行う。チャットまたは医師の判断によりビデオ通話で診察を行なっている。費用はクレジットカードなどで決済。処方された薬剤は、最短で翌日には希望の場所へ郵送される。
十分な知識を持たないまま成長
「診察の内容は、生理不順、生理痛、月経困難症、避妊に関するものが大半を占めます。月経関連の症状緩和や避妊には経口避妊薬(低用量ピル)を服用するのが世界では標準になっているのですが、日本では、ピルに対してネガティブなイメージがまだあります。そのため、必要な人に届きにくいのが現状です。近くにクリニックがない、服用した方が良いのか相談する場所がない、周囲の目が気になる。こういった悩みを解決したいと考え、このサービスを始めました」と話してくれたのは、スマルナを運営するネクストイノベーション株式会社代表の石井健一さんだ。
海外では、月経の症状緩和や避妊にピルを使用するケースが多い。しかし日本ではピルの服用率はわずか0.9%。海外先進国の24.6%に比べると格段の差だ。(2019年の国連人口部の調査結果)。
この低さの一因となっているのが、学校で行う性教育にある。通常、性教育は保険体育の授業で行われるが、日本では学習指導要領により、保健体育の教科書に「性交」や「避妊」という言葉を避けているのが現状だ。これでは、月経や妊娠について十分な知識を持たないまま成長してしまい、結果として「予期せぬ妊娠」につながってしまう場合が少なくない。
現状を改善したいと、同社はこの3月に「ピル・ファクトブック」という冊子を作成。ピルの服用目的や副作用、性感染症など、女性に必要な知識を詳しく解説した内容になっている。データを無料で公開するほか、希望する教育機関へは無償で提供しているこの冊子には、避妊に失敗した場合、アフターピル(緊急避妊薬)を72時間以内に服用することで妊娠リスクを低減することもできる、といった現実に即した情報も掲載されている。
「まずは正しい知識を身につけ、専門家とよく相談した上で、ピルを使用するかどうかを自身で選択できるようになる。そういった社会を目指しています」