走り味はあからさまに近未来感覚である。試乗したパフォーマンスモデルは、モデル3のなかでもっとも加速性能に優れたモデルである。0-100km/hが3.4秒というから、5リッター級のエンジンを積むスポーツセダンを超える加速力である。そればかりか、前後に搭載するモーターは、アクセルペダルを床まで踏み込んだ瞬間に最大トルクを発生する。内燃機関のように、エンジン回転の上昇に比例してパワーが盛り上がることはない。最初の一歩が最大なのである。
そのため、不用意な発進では、まるで信号グランプリに挑んだかのような加速Gが炸裂する。緻密に制御された4WDの効果で、タイヤはキュッとも鳴くこともなく、最大トルクのすべてを路面に伝えてしまうから始末に悪い。頭はヘッドレストに打ちつけられる。そんな気はさらさらなくても、戦闘モードに叩き込まれるのだ。
一気に増殖するか
もちろん慣れれば、アクセルを加減できるようになるから心配は無用なのだが、ガソリン車から乗り換えたら最初の一歩に注意した方がいいだろう。鞭打ちの危険性もある。
減速も、刺激的である。踏み込んだ右足の力を緩めれば、いわば内燃機関でいうところのエンジンブレーキが強烈に効く。ほとんどブレーキペダルを必要としないほど強い。いわば1ペダルで事足りる。最初はその違和感に眉をしかめたが、慣れるともはや、いちいちブレーキペダルに足を踏み変えて減速していたことがバカバカしく思えた。そんな近未来感を突きつけるモデル3が日本を走り始めた。これが一気に増殖するのか、一部の趣味性の高いクルマにとどまるのか、しばらく見守っていたいと思う。
【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】はこちらからどうぞ。