試乗スケッチ

日本を走り始めた“近未来” 驚きや違和感が畳みかけてくるテスラのモデル3

木下隆之
木下隆之

 走り味はあからさまに近未来感覚である。試乗したパフォーマンスモデルは、モデル3のなかでもっとも加速性能に優れたモデルである。0-100km/hが3.4秒というから、5リッター級のエンジンを積むスポーツセダンを超える加速力である。そればかりか、前後に搭載するモーターは、アクセルペダルを床まで踏み込んだ瞬間に最大トルクを発生する。内燃機関のように、エンジン回転の上昇に比例してパワーが盛り上がることはない。最初の一歩が最大なのである。

 そのため、不用意な発進では、まるで信号グランプリに挑んだかのような加速Gが炸裂する。緻密に制御された4WDの効果で、タイヤはキュッとも鳴くこともなく、最大トルクのすべてを路面に伝えてしまうから始末に悪い。頭はヘッドレストに打ちつけられる。そんな気はさらさらなくても、戦闘モードに叩き込まれるのだ。

 一気に増殖するか

 もちろん慣れれば、アクセルを加減できるようになるから心配は無用なのだが、ガソリン車から乗り換えたら最初の一歩に注意した方がいいだろう。鞭打ちの危険性もある。

 減速も、刺激的である。踏み込んだ右足の力を緩めれば、いわば内燃機関でいうところのエンジンブレーキが強烈に効く。ほとんどブレーキペダルを必要としないほど強い。いわば1ペダルで事足りる。最初はその違和感に眉をしかめたが、慣れるともはや、いちいちブレーキペダルに足を踏み変えて減速していたことがバカバカしく思えた。そんな近未来感を突きつけるモデル3が日本を走り始めた。これが一気に増殖するのか、一部の趣味性の高いクルマにとどまるのか、しばらく見守っていたいと思う。

木下隆之(きのした・たかゆき)
木下隆之(きのした・たかゆき) レーシングドライバー/自動車評論家
ブランドアドバイザー/ドライビングディレクター
東京都出身。明治学院大学卒業。出版社編集部勤務を経て独立。国内外のトップカテゴリーで優勝多数。スーパー耐久最多勝記録保持。ニュルブルクリンク24時間(ドイツ)日本人最高位、最多出場記録更新中。雑誌/Webで連載コラム多数。CM等のドライビングディレクター、イベントを企画するなどクリエイティブ業務多数。クルマ好きの青春を綴った「ジェイズな奴ら」(ネコ・バプリッシング)、経済書「豊田章男の人間力」(学研パブリッシング)等を上梓。日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員。日本自動車ジャーナリスト協会会員。

【試乗スケッチ】は、レーシングドライバーで自動車評論家の木下隆之さんが、今話題の興味深いクルマを紹介する試乗コラムです。更新は原則隔週火曜日。アーカイブはこちら。木下さんがSankeiBizで好評連載中のコラム【クルマ三昧】こちらからどうぞ。

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