教育、もうやめませんか

子どもにゲームやYouTubeをやめさせる簡単な方法

野村竜一
野村竜一

 ゲームを強制する

 子どもがゲームばかりやってしまう。子どもがYouTubeを見てばかりいる。子どもが漫画ばかり読んでいる。子どもが…。古今東西、多くの保護者が抱える悩みであり私のところに相談として寄せられることも多い。

 子どもにゲームをやめさせるには実に簡単な方法がある。子どもにゲームを強制すること。できれば毎日のノルマを決め、スコアの推移を保護者が管理し、さらには毎日振り返りのレポートの提出を義務付ければもう完璧だ。個人的にはゲームやYouTubeをやめさせる必要があるとは思っていなく、徹底的にやればいいと思っているが。その先は飽きて辞めるか、極めてそこから多くの果実を得るかのどちらかだから。

 「リアクタンス(reactance=抵抗)」という心理学の理論がある。権威的、高圧的な説得や誘導を受けると、人はそれを自由の侵害と捉え、自由を取り戻そうと行動する。結果、説得や誘導と反対の行動をとるというもので、1966年にジャック・ブレームという心理学者が発表したものだ。その後、多くの関連実験や論文があり、インターネットを検索すれば当たることができる。

 権威的に何かをしなくてはいけないとされた時、人は自然とその何かに取り組むモチベーションを失うというのは私にとって本当に実感を伴って理解できる。仮にどんなに好きなものであってもそれを強制されたり、過度に管理されると興味を失ってしまう。簡単に言えば楽しくなくなる。そして楽しくなくなった物事を続けられる人間はそう多くはなく、仮に続けられても生み出すものは限定的だ。多くの人の“やらされ仕事”や学校の宿題がそうであるように。

 実際、私は大学卒業後、憧れに憧れたテレビ制作の仕事に就いたわけだが、それが仕事になった途端に興味を失い職を変えた。以来、(生活費を稼ぐ必要があるという制約の中で)最大限自分が強制されず、管理されないかどうかという尺度で仕事を選んできた。

 強制される限り魅力は感じにくい

 最近教育に携わる人々とよくおこなう議論がある。

 「学校を、生徒たちが進んで行きたくなる場所にするにはどうしたらよいか」

 魅力的な先生、生徒が楽しめるに違いないと研究された尽くしたカリキュラム、はたまた美味しい給食 など。 どれも多くの学校や教育者が散々試行錯誤しているところではないだろうか。しかし、どんなに魅力的な場所に仕立てあげようとも、学校が「行かなくてはいけない場所」である以上、そこに自然とリアクタンスが働くと私は思う。簡単に言えば、どんなに魅力的な場所でも、そこへ行くことを強制されたら楽しくなくなるというものだ。最も魅力的な学校とは、行っても行かなくてもいい学校だ。

 学校に行くことを強制せず、行っても行かなくてもいい場所にすべきというのは私の持論であり自分の子供にはそれを実践してほしいと思ってはいる。我々が今「学校」と呼んでいる場所は行ける場所の一つである。他にも選択肢があり、多くのコミュニティに所属することで単一の価値観にはまり込むことを避けるべきだというのは本連載の以前の回で書かせてもらった。

 私が運営するサイエンススクールであるManai Institute of Science and Technology(マナイ・インスティテュート)の役割は、生徒が自発的に研究を進められる環境を作ることであり、これに尽きる。

 Manaiのメンター達、教育に携わる人々、そして私も含め保護者は、良かれと思って子どもや生徒に何かを勧めたり、指導する時、それが強制や権威をまとった誘導になっていないか徹底的に注意する必要がある。

野村竜一(のむら・りゅういち)
野村竜一(のむら・りゅういち) エデュケーションデザイナー
Manai Institute of Science and Technology代表
1976年東京都生まれ。東京大学卒。NHK、USEN、アクセンチュアを経て「旧態依然とした教育が人の学びを阻害している。学びをアップデートさせたい」との思いから起業。2019年秋、サイエンスに特化したインターナショナルスクール「Manai Institute of Science and Technology」を開校した。「サイエンスを武器に世界中で夢をカタチにし、課題を解決できる」人物の輩出を目指す。論理的思考力養成の学習教室「ロジム」も経営。

教育、もうやめませんかは、サイエンスに特化したインターナショナルスクールの代表であり、経営コンサルタントの経歴をもつ野村竜一さんが、自身の理想の学校づくりや学習塾経営を通して培った経験を紹介し、新しい学びの形を提案する連載コラムです。毎月第2木曜日掲載。アーカイブはこちら

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