(160)長寿の秘訣 食べるなら植物性タンパク質を
高血圧と脂質異常症で私のクリニックに通院している60代後半の女性患者さんは、テレビで健康番組をやっていると必ず見て、できることはとりあえず実践するのだそうです。いつも安定しているコレステロール値が上がっていたとき、変わったことはなかったか尋ねたところ、肉類をたくさん食べるようになったということ。「テレビでお肉をたくさん食べる人は長生きすると言っていたから」というのがその理由でした。
肉食が長生きの秘訣(ひけつ)だといろいろな所で語られるようですが、信頼に足る研究結果がそうあるわけではなく、むしろ肉類、特に加工肉の摂取が多いと心血管病やがん、死亡が増えることが近年の海外の研究で多く示されています。
タンパク質の摂取と死亡率の関係を日本人で観察した研究結果が8月に米医学雑誌に発表されました。がんや心血管病の既往のない45歳から74歳までの男女7万人を対象に、平均18年観察したものですが、動物性タンパク質の摂取量と死亡率に関係は見られませんでした。一方、植物性タンパク質を多く摂(と)る人では死亡率が1割強低下しており、特に心血管病死は3割ほど減っていました。また1日の摂取カロリーの3%分を赤肉から植物性タンパク質に替えると、全死亡が36%、がん死亡が39%、心血管死が42%減り、動物性タンパク質でも、肉類から魚に替えると死亡率は低下していました。
ある程度高齢になるまでは、たくさん肉を食べるより、植物性タンパク質をしっかり摂った方が長く健康でいられそうです。後期高齢者といわれるような年齢になり、食事量が減ったり体重や筋肉量が落ちたりした人は、肉や魚を含め栄養価の高いものをしっかり食べた方がよいのでしょう。
女性患者さんには、肉食をしたからといって寿命が延びるわけではなさそうなのと、肉類に含まれる飽和脂肪酸が脂質異常を悪化させている可能性についてお話ししました。「テレビで言っていることは全部本当のことだと思っていました」と少し驚いていましたが、納得してくれたようです。(しもじま内科クリニック院長 下島和弥)