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8万人の女子大生を守れ…「性犯罪大国・大阪」返上へ警察と大学が提携

ニュースカテゴリ:暮らしの生活

8万人の女子大生を守れ…「性犯罪大国・大阪」返上へ警察と大学が提携

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性犯罪の件数が他府県に比べ圧倒的に多い大阪で、女子大生を性被害から守るために立ち上げられた「防犯キャンパスネットワーク大阪」の発足式。大阪府警と府内の大学が手を結んだ=大阪市北区  女子大生の性犯罪被害の防止を目的に昨年、大阪府警と府内66大学が、全国初となる性犯罪に特化した連携システム「防犯キャンパスネットワーク大阪」を発足させた。

 府警が府内の性犯罪統計や防犯情報を大学側に配信するほか、大学側も相談窓口を設置するなど、協力して性犯罪抑止に取り組もうという試みだ。

 背景には、大阪の性犯罪の認知件数が圧倒的に多く、中でも若い女性の被害が目立っていることがある。

 特に女子大生は一人暮らしを始めたり、飲酒する機会もできたりと、これまでの生活が一変するケースも多い。

 被害者を1人でも減らすために-。警察と大学の強力タッグが女子大生を救う。

 寸劇で防犯指導

 昨年11月、大阪大谷大の大学祭である寸劇が披露された。夜道で女性が突然、後ろから男に抱きつかれるストーリー。「加害者のすねをける」「防犯ブザーを鳴らす」などさまざまな撃退法が紹介された。演じたのは、大学祭実行委員会の有志でつくる演劇グループ「劇団ポリス」。

 名称から想像ができたかもしれないが、防犯キャンパスネットワーク大阪の発足で、大学祭のために結成された。

 大阪大谷大によると、大学周辺は街灯が少なく、夜に不審者がうろついていたとの情報が女子大生から寄せられたりするという。

 実行委委員長の大学3年、三木淳さん(21)は「演劇をきっかけに、女性側の防犯対策に加え、男性側も怪しい人物や場面を見かけたら迷わず110番する。そうした勇気が犯罪を1つでも減らすのだと知った。今後も活動を続けて、学生の防犯意識を高めたい」と話す。

 20万人に情報配信

 平成24年まで3年連続全国ワースト1。これが大阪の強制わいせつ認知件数の現状だ。

 昨年も11月末現在で1252件と、東京に409件の大差をつけて全国最悪。強姦認知件数も177件と多く、中でも18~22歳の若い女性が被害の約3割を占める。この年代の女子大生を多く抱える大学側としては見過ごせない状況にあり、昨年9月、ネットワークが発足した。

 ネットワークでは、府警が3カ月に1度、府内で発生した性犯罪の事例や防犯情報を各大学にメール配信する。「3カ月」と設定したのは、季節ごとに痴漢が増えたり露出狂が増えたりと、犯罪傾向が変わるためだという。

 情報を受け取った大学側は、内容をチラシにしたり、メール配信したりして学生に届ける。また、大学独自の取り組みは大学間で情報共有し、参考にするという。対象となる66大学には女子大生が8万人在籍しており、男子学生も含めるとその数は約20万人に。大規模ネットワークの誕生だ。

 「保健室」代わり

 「警察沙汰(ざた)になったら大事(おおごと)になるんじゃないか」

 「性犯罪というほどではないかもしれないから…」

 性被害に遭った女性はこう思いがちだという。こうした“遠慮”は数字の上でも現れている。

 大阪大の調査では、痴漢などの性犯罪に遭ったという学生の申告は、24年度12件。学生数や、性犯罪の発生状況から考えると少なすぎると言っても過言ではないだろう。

 ただ、学校関係者は「警察には言いにくいからと、迷ったあげくに学校に申告する人が少なからずいるということ」と話す。ネットワークはそうした被害者の声をすくい上げる役割も期待されている。

 参加した66大学は、学内に性被害に対応可能な相談窓口を設置することを決めた。「保健室」のような感覚で学生に利用してほしいという発想だ。窓口では相談者の話を聴いてアドバイスをするほか、本人の了承を得て警察に通報することも考えているという。

 窓口設置に向けては、府警の女性警察官が大学担当者らに対し、被害に遭ったときの対応や支援の仕組みを説明する講習会を事前に開催するなど支援している。

 「ながら歩き」の危険

 女子大生の性被害撲滅に向けた周囲の取り組みは少しずつ進み始めた。もちろんこれで十分というわけではなく、学生個人としても注意をしておくべきことは多い。

 府警が24年中の路上で起こった女性に対する性被害に関する通報内容を分析したところ、15%が音楽プレーヤーを、14%がスマートフォンを操作中だった。近づいてくる車や人の気配に気づけない「ながら歩き」が狙われるケースは、近年増えているという。

 だが、この危険性が昨年6~7月に新聞やテレビで報道された後の9月の通報は、音楽プレーヤーの操作中が12・1%に、スマホは8・4%にまで減少した。府警は「1人1人が気を付けた結果ではないか」と分析。ちょっと注意を払うことが被害防止につながることが実証された形だ。

 このほか、早足で歩いたり、後ろをちらちら振り返って気にするそぶりをみせたりするだけでも、加害者の意欲をそぐ効果があるとされている。強制わいせつはもちろん、痴漢や盗撮といった行為の防止にも役立ちそうだ。

 飲み会での被害も

 だが、性犯罪の被害は見知らぬ人から路上で襲われるケースばかりではない。

 一橋大の村瀬幸浩講師(72)=性科学=は「大学生になれば飲酒できるようになったり1人暮らしが始まったりする。そういう場で知人から被害を受けるケースがとても多い」と警告する。21年には、京都教育大の男子学生6人が、女子大生に対する集団準強姦容疑で京都府警に逮捕されたが、コンパで酒に酔った女子大生を居酒屋で集団暴行したというものだった。

 「大学生は自己決定のできる大人とみなされることが多く、被害に遭っても加害者に『同意があった』と強弁されてしまいかねない」と村瀬講師。「知人が加害者になる可能性があると学生に教えておく必要がある」と忠告する。

 府警は今回のネットワーク発足について「女性だけが気を付けていても被害はなくならない。男性にも性犯罪の現状や対策を知ってもらうことが重要で、男女力を合わせて抑止に取り組んでほしい」と話している。

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