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臨時福祉給付金、収入形態で受けられぬ例も

ニュースカテゴリ:暮らしの健康

臨時福祉給付金、収入形態で受けられぬ例も

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 ■収入形態で受けられぬ例も

 今月5日に閣議決定された5・5兆円の経済対策には、消費税率引き上げで負担増となる低所得者への給付「臨時福祉給付金(仮称)」が盛り込まれた。国民の5人に1人に1万~1・5万円が支給される。しかし、低所得者の把握は難しい。非正規雇用などで給与が少ない現役世代には受け取りにくい給付になりそうだ。(佐藤好美)

 逆転

 臨時福祉給付金(簡素な給付措置)の基本的な給付額は1人1万円。消費税が8%の間(1年半)の食料品にかかる負担増分に当たる。さらに、年金を受給している人には5千円が加算される。同時期に行われる年金の引き下げによる影響が考慮された。

 給付対象者は「本人が住民税(均等割)を課税されていない」人。ただし、(1)住民税が課税されている人に扶養されている親族(2)生活保護の受給者-などは除く。対象者は約2400万人に上る。

 では、どのくらいの収入だと住民税(均等割)が課税されないのか-。表は課税されない上限を示したものだ。住民税は個人単位だが、扶養親族の有無や、収入が給与か年金かによっても非課税限度額は異なる。

 例えば、年金収入が211万円(国民年金+厚生年金)の夫と、年金収入が約78万円(国民年金満額)の妻の世帯では、世帯の収入は300万円近いが、2人とも住民税が課税されない。このため、2人分で計3万円の給付金を受け取れる。

 一方、給与収入が160万円の娘が無年金の母親を養っているような世帯では、同じ2人暮らしで世帯の収入が低くても、娘は住民税が課税される。この結果、2人とも給付金を受け取れない。

 こうした差は、適用される控除の違いで生じる。65歳以上の人の年金から控除される「公的年金等控除」は最低額が120万円だが、給与収入に適用される「給与所得控除」は最低額65万円。給与収入の方が低い時点で課税され、同時に「低所得者」からも外れる。

 公的年金のカテゴリーに入らない非課税年金

 同じ年金収入でも、表の限度額を超えても課税されない年金もある。会社員や公務員だった夫の死亡後、妻が受け取る遺族厚生年金や遺族共済年金は「非課税」。所得と見なされず、公的年金のカテゴリーにも入らない。

 東京都内に住む女性(88)は年金収入が毎月約30万円近くあるが、課税されない。年金収入のうち20万円程度が教師だった夫の遺族共済年金で、残りは恩給の遺族給付と自身の国民年金。遺族年金も遺族給付も非課税だから、年間収入は350万円を超えるが、今回の給付1万5千円を受け取れる。

 遺族厚生年金だけで200万円を超えるケースは少ないが、厚生労働省の「遺族年金受給者実態調査」によると、65歳以上で遺族厚生年金を受ける人の2割超が150万円以上。一般的にはこれに加えて自身の国民年金(満額で78万円)があるが、この組み合わせなら、単身で表の155万円を超えても課税されず、給付金も受け取れる。

 豊かさや貧しさの指標がない

 「住民税非課税」は医療や介護で負担や給付を決める際にも使われる。豊かさや貧しさの指標が他にないからだ。だが、こうした逆転は、貧しい人が富める人に所得移転をすることにもなりかねない。

 「能力に応じた負担」への転換を掲げた「社会保障制度改革国民会議」(会長・清家篤慶応義塾長)も報告書で年金課税について、「世帯としての収入の多寡と低所得者対策の適用が逆転してしまうようなケースが生じている」と指摘。「世代内の再分配機能を強化するとともに、負担と給付の公平を確保する観点から検討が求められる」とした。だが、見直しの道筋は見えていない。

 今回の経済対策では「臨時福祉給付金」とは別に、子育て世帯への給付措置も盛り込まれた。月額1万円以上の児童手当の対象となる子供1人当たり1万円が支給される。

 臨時福祉給付金との重複受給はできない。児童手当の支給水準は住民税非課税の水準よりはるかに高いので、中所得層で子供がいる世帯はこれが受けられる。だが、給与収入が低く、子供のいない世帯はエアスポットに落ちたように、どちらの受給も難しそうだ。

 【住民税(均等割)の非課税限度額】

 ◎給与収入 単身 100万円

  夫婦 156万円

 ◎公的年金の収入 単身 155万円

 (65歳以上) 夫婦 211万円

 ※扶養関係のある2人世帯も「夫婦」と同じ

 ※生活保護基準の1級地の額

 ■同じ収入なら同じ負担に

 山崎泰彦・神奈川県立保健福祉大学名誉教授の話「長らく『年金には実質的に課税しない』という考え方があり、高齢者を社会的弱者として配慮してきた。だが、高齢世代と現役世代の所得水準は今や実質的に差がなく、資産保有では高齢者の方が恵まれている。にもかかわらず、税法上の『所得』で見ると、途端に『低所得』の高齢者が増える。原因は、公的年金等控除(120万円)が給与所得控除(65万円)に比べて格段に大きいことによる。これは、高齢者については低所得の基準が底上げされているに等しい。さらに大きな問題は非課税年金の存在で、遺族年金などは所得として全くカウントされていない。こうした取り扱いの差は、住民税非課税世帯を対象にした低所得者支援だけでなく、国民健康保険料の算定や医療保険の高額療養費制度の負担額にも影響しており、現役世代に偏った負担構造になっている。今後は給与でも年金でも同じ収入なら同じ負担を求めるべきだ。非課税年金を課税対象にし、公的年金等控除を給与所得控除並みに下げることで、年齢ではなく負担能力に応じた負担構造にする必要がある」

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