ニュースカテゴリ:暮らし生活
「給食パンにハエ」除いて食べるよう指導 食品廃棄の是非など考える好機
更新
コバエが付着していた給食のパン(岐阜県可児市学校給食センター提供) 給食のパンにコバエの付着が見つかり、学校側がハエを除いて子供に食べるよう指導したことが問題となっている。「ハエが付着したパン」と聞いて、「そんな不衛生な物を食べさせるなんて」と思った人も多いだろう。一方で、世界に目を向ければハエを含む昆虫は食料ともされ、「安全性に問題のないパンを捨てるのはもったいない」との声もある。(平沢裕子)
ハエが付着したパンは先月2日、岐阜県可児市の中学校で4個、9日に小学校で約100個それぞれ見つかった。市教育委員会によると、付着していたのはクロバネキノコバエ。体長1~4ミリと小さく、パン工場の網戸をくぐり抜けて入り込んだようだ。パンを焼く鉄板の上にハエがいたとみられ、それに気づかずにパン生地を載せたため、パンと一緒にオーブンで焼かれていた。
パンに付着したハエは異物。市教委のマニュアルには、異物混入の食品でも「健康に影響がないと判断した場合は食べる」との方針が示されていた。
両校はこれに従い、ハエが付着した部分を取り除いて食べるよう指導。児童生徒や保護者から苦情はなかったが、対応を知った市議が市議会委員会で問題視した。市教委は「指導は間違いだった」と認め、早急にマニュアルを見直すとしている。
「食の安全・安心財団」(東京都港区)の唐木英明理事長は「この問題は食品の安全性や廃棄の是非、世界の食料事情などを子供たちに考えさせる絶好の内容。『健康に影響がないと判断した場合は食べる』とのマニュアルも極めて妥当なもの」と指摘する。
ハエを含む昆虫は世界的には食料とされる。国連食糧農業機関(FAO)も5月、人口増加に伴う食料問題に対処するため、「昆虫食」を推奨。今回、ハエはパン生地と一緒にオーブンで焼かれていることもあり、唐木理事長は「安全上、問題ない」と話す。
それでも、衛生害虫とされ、不衛生なイメージがあるハエが付着したものを食べるのには抵抗を持つだろう。昆虫料理研究会の内山昭一さんは「日本人の多くが昆虫を食材として認識していない現状では仕方がない面はある」とする。しかしながら、「クロバネキノコバエはキノコなど菌類や植物を食べるコバエで、糞(ふん)便などにたかるギンバエなどとは違う。ハエと聞くと抵抗があるかもしれないが、ハチと考えればそれほど嫌ではないのでは」。
内山さんはクロバネキノコバエは食べたことがないが、アリやハチは食べたことがある。多くの昆虫の味は淡泊で、ほのかに甘いのが一般的。桜の葉を食べるサクラケムシのように桜の香りがする「個性派」もいるという。
唐木理事長は「もちろん、ハエを付着させたパンの納入業者に問題がある。しかし、この事故を業者やマニュアルの責任にして終わらせるべきだろうか」と指摘。そのうえで、「食べられる食品を嫌だといって拒否することができるのは、今の豊かな日本だから許されること。それでいいのか。学校給食は教育の一環でもあり、世界の食料事情も伝え、子供たちと議論してほしい」と話している。
食品への昆虫混入は事業者にとって悩ましい問題だ。特にチョコレートなど甘いお菓子を好む虫は多い。多くの工場は衛生管理が行き届き、工場内で虫の卵や幼虫が入ることはない。しかし、出荷から消費されるまでの間に混入することは少なくない。
日本チョコレート・ココア協会のホームページによると、チョコやナッツ類、ビスケットなどあらゆる食品に発生するノシメマダラメイガは、包装のわずかな隙間から入り込むという。涼しい場所での保管や開封後は早めに食べきることを勧めている。