講師のホンネ

心の健康維持のために 「1日3褒め」のススメ

 あなたは、家族がきちんと栄養を取れているか関心があるだろうか。当然だという声が聞こえてきそうだ。私も乳幼児3人の母として、子供の健康を何よりも優先する。では、精神科医として聞きたい。心の健康はどうだろう。家族の心に必要な栄養を、毎日きちんと与えているだろうか。私たちは、幼少期に保護者と愛着を深めることで、他者に対する安心感を獲得する。つまり、親からの十分な愛情により、愛される存在として自分を認め、他人を信じられるようになる。(精神科医・伊豆はるか)

 しかし、親の不在や虐待が要因で、安定した愛着形成ができない場合、愛着障害を起こし子供の人生に大きく影響する。普通の飢えなら、栄養状態が回復すれば大抵元に戻れるが、愛情への飢えは厄介なのだ。

 愛着障害があると、誰かに愛されても信じることができない。そのため、わざと相手を試すような行為を繰り返し、時に自分を傷つけ注意を引こうとする。逆に、刹那的な関係を求めたり、傷つきたくないが故に安定的なつながりを自ら破壊する。

 とにかく、飢えを満たしてくれる愛を求めてもがき、本人も周囲も苦しむ。虐待も愛着障害が原因のことが多い。愛着障害を持つ親は、子供を使って愛情確認をする。こんな私でもまだ愛せるか。まだゆるせるかと。

 理不尽に傷つけられても、幼い子供の親への愛は揺るがないから格好のターゲットとなる。そして、虐待は負の連鎖で受け継がれる。このように愛情への飢えは人生を狂わせる。他人を信じられない、愛されていると実感できない、他人と深く関われない。いつも失敗を恐れ、すぐに人と比べ、人のご機嫌ばかり伺う。心の栄養が足りないと、こんな悲しいことが起きてしまう。

 人の幸せにとって、愛情は食事以上に大切なのだ。料理は、家事代行でも市販のお総菜でも、子供の身体の成長に特に影響はない。ただ、褒めて、抱きしめて、「愛してる」と言って心を育むことは、親にしかできない。食事が身体の健康の源なら、愛情は心の健康の源だ。悲しい愛着障害を生まないためにも、ちゃんと心に栄養をあげよう。

 まずは、子供やパートナーに褒め言葉をかけるところから。1日3食ならぬ「1日3褒め」を始めてみてはどうだろう。

【プロフィル】伊豆はるか

 いず・はるか 兵庫県出身、精神科医・3児の母。慶応大在学中に会社を設立し、塾や飲食店を経営。結婚出産と仕事の両立のため、社長業の傍ら医学部入学。33歳で医師免許を取得。現在は精神科医・訪問診療医として働きながら、女性の新しい生き方を提案する「マルチライフプロジェクト」を主宰。現実的かつ具体的手法で女性を導く講座は毎回満席。

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