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「近大マグロ」庶民の味になるか 天然と遜色なし「ほとんど区別がつきません」

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「近大マグロ」庶民の味になるか 天然と遜色なし「ほとんど区別がつきません」

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 近畿大学とサントリーホールディングス(HD)は平成25年4月、“最後の一等地”と呼ばれるJR大阪駅北側の再開発エリア「うめきた」に養殖魚の専門料理店をオープンする。

 近大の養殖魚といえば、世界で初めて卵からの完全養殖に成功したクロマグロが有名。クロマグロはマグロの中でも最高級とされ、「養殖で手軽に食べられたら」との期待が高まるが、「近大マグロ」ブランドの知名度も上がっており、意外と高値のままかもしれない!?

 気になる“養殖”クロマグロの味は? 

 料理店「近畿大学水産研究所」は、うめきたの先行開発区域「グランフロント大阪」の中核施設「ナレッジキャピタル」に開業。店の運営はサントリーHDのグループ会社が担当する。

 店内には個室、カウンター席など約100席が設けられ、クロマグロの刺し身や焼き物、たき物、丼などが提供されるほか、マグロの解体ショーなども行われる。また、カウンター席にはタブレット型情報端末を設置し、養殖マグロ技術などを動画配信する。

 気になる養殖クロマグロの味だが、「天然のマグロと食べ比べましたが、遜色(そんしょく)は全くなく、ほとんど区別がつきませんでした」とサントリーHDの担当者は打ち明ける。

 大トロ1貫2~3万円?

 クロマグロの体長は大きなもので3メートルを超え、重さは400キロにもおよぶ。脂の乗り具合もきわめて良いことから高級」とされ、高値で取引される。

 24年1月には東京・築地の中央卸売市場で、269キロの青森県大間産のクロマグロが、築地では過去最高値となる5649万円で競り落とされた。

 1キロあたり21万円。仮に握りずし1貫(2個)分の価格を計算すると、「赤身で1万円以上、大トロで2万~3万円」(市場関係者)で、庶民が気軽に食べられるものではない。

 これに対し、今回の料理店では「養殖クロマグロの頭の先から尾ひれまで、あらゆる部位を食材として活用し、少しでもお値打ちな料金で提供したい」(近大担当)。客単価は、昼食時で1千円前後、夕食時で3500~6千円を想定しており、いずれも大阪・梅田付近では平均的な価格となる。

 クロマグロは日本近海でもよく獲れたが、近年は乱獲などで個体数が激減。太平洋産だけでは国内消費分をまかなえず、大西洋産のクロマグロも日本に空輸されるという。さらに、ここ数年は新興国の経済成長などでクロマグロの消費量が急増しており、世界的に価格が高騰している。

 10年ぶりの漁獲枠拡大でも高根の花

 こうした中、11月にモロッコで開かれた大西洋まぐろ類保存国際委員会(ICCAT)年次総会で、地中海、東大西洋のクロマグロの年間漁獲枠を10年ぶりに拡大し、来年は500トン増の1万3400トンにすると決められた。

 このうち日本に割りあれられた漁獲枠は42・5トン増の約1140トン。輸入も含め国内に出回るクロマグロの量は年間約4万トンといわれるだけに、大阪市中央卸売市場で水産物卸を手がけるうおいち(大阪市)の担当者は「漁獲枠が広がったからといって、ただちに取引価格が下がる状況ではない」と話す。

 近大の担当者は「近大水産研究所では年間4万匹を育てており、このうち成魚となった4千匹の一部を料理店に供給する。今回の店舗1軒分なら品不足の心配はない」としている。

 今は高級食材の養殖クロマグロ

 近大では産卵の段階からクロマグロを育てる「完全養殖」だが、ある水産関係者は「近大以外でクロマグロの完全養殖に成功した事例は聞いたことがない。マグロを10キロ太らせるにはイワシなど200キロ前後の餌が必要で、採算面は厳しいのでは…」と推測する。

 このため、養殖による大量生産で本当にクロマグロが手の届く価格になるまでにはもう少し時間がかかるかもしれない。しかも、近大はクロマグロの完全養殖で世界的に知られるようになり、「大間」ならぬ「近大」がマグロのブランドとして浸透しつつある。業界関係者は「有名になってきたことで取引が活発化すれば、値段は意外と安くならないかも」と推測する。

 近大理事長で、参議院議員の世耕弘成氏は「まず養殖魚のおいしさを体験してほしい。売り上げは考えない」と述べ、当面は採算度外視でのぞむという。言い換えれば、現時点で「近大マグロ」は相当な高級食材なのかもしれない。(松村信仁)

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