「生活困窮者」の定義は 与党の10万円給付に賛否
自民、公明両党が合意した18歳以下の子供への10万円相当給付に賛否が渦巻いている。「ありがたい」と歓迎する子育て世代もいる一方、対象外の人からは「もっと柔軟な支援を」「ばらまきだ」との指摘も。岸田文雄首相は子供への給付とは別に、経済的に困る学生に現金10万円を支給すると明言したが、「困窮」の定義は人によって異なる。専門家は「支援の目的がはっきりせず、納得できる説明が必要だ」と指摘している。(【関連】「マイナポイント配布は経済対策にならない」それでも政府が“バラマキ”を続ける理由)
11日午後、近畿大東大阪キャンパスで、パックご飯やレトルト食品など食料品の無償配布が始まった。対象は新型コロナウイルス禍で経済的に困窮する1人暮らしの学生だ。
「家賃を払えば、自由に使えるお金は月に2、3万円。少しでも負担を減らそうと思った」と話すのは、総合社会学部1年の男子学生(18)。今春から1人暮らしを始め、親から毎月仕送りされる約10万円で生活している。
今回の給付策を「本当に助かる」と歓迎しながらも、気にかかるのは年齢による線引きだ。同学年でも19歳の誕生日を迎えていれば対象外となるため、「不公平感が生まれる」。同じく仕送りで生活する文芸学部1年の滝本結衣さん(18)も「支援が目的なら年齢を問わず、必要な人に給付してもいいのでは」と注文をつけた。
10万円相当の支援対象は当初、18歳以下の子供や生活困窮世帯に限られるとみられていた。だが岸田首相は10日夜の記者会見で「厳しい経済状況にある学生にも10万円の緊急給付金を支給する」と発言。子供への給付とは別に、困窮する学生への現金給付を打ち出した。
滝本さんは「今のところ逼迫(ひっぱく)した状況にはない」としながらも、「何をもって困窮と判断するのか」と疑問を呈する。他の学生からは「奨学金を借りている人や自分で生活費や学費を稼いでいる人に給付すべきだ」との意見があった。松野博一官房長官は11日の会見で「給付の対象や時期は関係省庁で精査中」とした。
保護者も複雑な思いを抱く。東京地区私立大学教職員組合連合の調査では、首都圏の私立大に令和2年度に入学した下宿生への仕送り(6月以降の平均)は月額8万2400円。近年は減少傾向にあるものの、家計への負担は決して小さくない。
「息子には『苦しい』とは言えないが、余裕は全くない」。東京の私立大に通う長男に仕送りを続ける堺市北区の男性会社員(52)は話す。長男の上京以降、仕送り捻出のため家計は自転車操業状態に。男性は「同じような立場の親は多いはず。もっと柔軟な支援があってもいいのでは」とこぼす。大学1年の長女がいる大阪府八尾市のパートの女性(55)も「高校生のときより大学生の今の方がお金がかかるのに」と打ち明けた。
与党は子供に給付する10万円相当のうち、まず5万円を年内に現金で給付し、来春までに子育て関連に使える5万円相当のクーポンを支給する方針だ。
シングルマザーとして中学1年の長男(13)を育てる大阪市の会社員、西崎麻衣さん(36)は、クーポンの使途に気をもむ。野球に打ち込む長男のため、スパイクや練習着を買い替えたいと考えているが、使い道が子育て関連に限られるのであれば「(クーポンが)使えないかもしれない」。
一連の給付策を「不公平」「ばらまきだ」と批判する声もある。3人の子供を育てる兵庫県明石市の大学職員の男性(46)は「子供の有無や年収で区切っての給付は軋轢(あつれき)を生む」と懸念。国民一律の給付が望ましいと訴えた。
与党が合意した経済支援策を、専門家や支援団体はどう見るのか。