■「25年ルール」で右ハンドル車の輸入が解禁される
さらに、アメリカの中古車輸入に関する25年ルールの適用によって、一気に価格が高騰した。
世界最大のスポーツカー市場であるアメリカでは、生産から25年を経た中古車はクラシックカー扱いとなり、右ハンドル車でも輸入が解禁される。加えて、関税や排ガス規制の対象からも外されるのだ。
89年に発表されたスカイラインGT-Rは、2014年から順次、この25年ルールの適用を受け、アメリカへの輸出が始まった。GT-Rは89年発表の32型から、95年の33型、99年の34型まで、ほぼ日本国内専用モデルだった。よって右ハンドルしか存在しない。
だが、この右ハンドルこそが「本物」。つまり価値が高い。
フェラーリやランボルギーニは、右ハンドルの国・日本でも、いまだ左ハンドル車ばかり売れているが、国を問わず、マニアは本物にこだわる。
日本仕様の日本製スポーツカーは、海外のファンにとっては“神”。そういった要因が重なって、現在の高騰が起きていると説明することができる。
■約20年前に発売された車が2000万に高騰している
国産スポーツカーで最も高騰しているモデルは、スカイラインGT-Rの最終モデル、34型だ。現在の中古価格は1300万円から3500万円。新車価格は499万8000円~630万円だったから、フェラーリF40も真っ青の暴騰ぶりである。
こちらも知人にオーナーがいるので、彼の話を聞いてみた。
「買ったのは10年ぐらい前です。走行2.5万キロで420万円でした。いま思えば信じられないくらい安いですけど、新車価格からあまり下がっていなかったので、メチャメチャ高いなぁと思いながら、頑張って買ったんですよ」
いま、走行3万キロ以下の34GT-Rを買おうと思ったら、どんなに安くても2000万円はする。まさかこんなことになるとは、買った本人はもちろん、世界中の誰も想像できなかった。
■「欲しい人は世界中にたくさんいる」
しかし34GT-Rは、99年発表のモデル。まだアメリカの25年ルールをクリアしていない。それがなぜ、ここまで値上がりしているのか。国産スポーツカーをメインに取り扱う中古車業者は語る。
「25年ルールが適用されれば、確実に値上がりするとわかっているからでしょう。株と同じですよ。それに、輸出先はアメリカに限りません。カナダは15年でOKです。同じ右ハンドルのイギリスやオーストラリアでも人気ですし、中東なんかにも出ています。ジャマイカではウサイン・ボルトはじめ、陸上選手にGT-Rの熱狂的ファンが多いことで有名です。欲しい人は世界中に結構いるんですよ」
この34型スカイラインGT-Rの中でも、250台限定モデルだった「Mスペック ニュルブルクリンク」の高騰はすさまじい。現在、価格を表示している売り物はないので相場は不明だが、最低でも3000万円することは間違いないという。新車時、630万円だった国産スポーツカーを、3000万円で買う人がいること自体、信じがたい。
前出の中古車業者は、1年ほど前、まさにその「ニュル」を販売したという。いったいどんな人が買ったのか。
「普通のクルマ好きのおじさんでした。日本人です。特に富裕層でもなかったと思います。その時はまだ2400万円でしたが、フルローンで買われました。120回均等払いだったと思います」
なんと、2400万円の中古車をフルローンで。
「危ない橋を渡っているように感じられるかもしれませんが、こういうクルマはもう作れませんから、値下がりすることはありません。リスクはないんです。みなさん、それをわかっているから買うんですよ」
■価格は高騰しても国産スポーツカーにはそれだけの価値がある
思えば自分も、フェラーリやランボルギーニを、高いお金を払って買い続けているが、これっぽっちも危険だとは思っていない。国産スポーツカーが高すぎて危険に思えるのは、それがはるかに身近な存在だったから。身内が背伸びしているように見えるからだろう。
こういう高価な中古スポーツカーを買うのは、ほぼ確実にクルマ好きである。もちろん富裕層も多いが、クルマにまったく興味がない人が、純粋に投機目的で買ったという話は聞かない。
クルマ好きの富裕層が、半分投機目的で買うことは多いにせよ、それでもやっぱり買う最大の理由は、「所有してみたいから」。
一部のマニアックな国産スポーツカーは、その欲望を満たすだけの価値がある。だから高騰しているのである。
清水 草一(しみず・そういち)
モータージャーナリスト
1962年東京生まれ。慶大法卒。編集者を経てフリーライター。代表作『そのフェラーリください!』(三推社)をはじめとするお笑いフェラーリ文学のほか、『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社)などの著作で道路交通ジャーナリストとして活動している。
(モータージャーナリスト 清水 草一)