価格高騰は「プーチン大統領が恐喝したから」?
緑の党にとって、炭素税は善だが、インフレは悪。そこで、彼らが電気代高騰の犯人として引っ張り出したのがプーチン露大統領。ダブル党首の一人のアナレーナ・ベアボック氏によれば、ガス価格の高騰はプーチン大統領の恐喝である。このままでは、冬に国民が凍えることになりかねないため、ロシアが契約通りガスを輸出するようドイツ政府が介入すべきだとまで主張した(RND9月23日付)。
ロシアがガスを出し渋っている理由は、それによってロシアとドイツの間の海底ガスパイプライン(ノードストリーム2)の運開認可を早めるためだというわけだ。長らく米国の妨害で遅れていたパイプラインは9月にようやく完成し、これが稼働すればロシアは潤沢な利益が見込め、ドイツはガス不足から解放される。
しかし、現在のガス不足は本当にロシアの陰謀なのか? 在独ロシア大使によれば、ロシアはヨーロッパとの契約はすべて履行しているばかりか、現在の輸出量は去年の水準より40%増しで、契約量を上回っているという。それについてはドイツ政府も認めている。
迫りくるドイツの「ブラックアウト」の危機
それどころか、ドイツとロシア及び東欧諸国との交易振興会(Ost-Ausschuss der Deutschen Wirtschaft)のオリバー・ヘルメス代表は、現在のロシアのガスの価格は長期契約で定められているため、市場スポット価格よりもずっと安値だという。その上、寒冷国ロシアは、秋口には自分たちのガスも慎重に確保する必要があるとする。
もちろんガスの高値が続けば、ノードストリーム2の運開が早まることはあり得るし、ロシアがそれを望んでいることは間違いないが、そのためにロシアがガスを出し渋っているのか、あるいは、本当に出せないのかは判然としない。
ただ、ロシアが何を考えていようが、まもなく原発を止め、さらに石炭火力も減らしつつある今のドイツには、確実な電源としてはガスしか残らない。ちなみに米国は、ドイツ(EU)のロシア依存を警戒してパイプラインの拡張に反対していたのだが、皮肉にも今、それが現実となりつつある。
現在のドイツの最大の懸念は、英国を襲っているエネルギーの諸問題がドイツにも刻々と迫っていることだ。例年ならば、秋には満杯になっているはずの電力会社のガスタンクは、6割方で止まったきり。しかも今年の末には、6基残っている原発の3基を止める予定だから、タイミングとしては最悪と言える。つまりドイツでは、風と太陽に恵まれなければ深刻な電力危機が起こりうる。もし、厳寒期に本格的なブラックアウトで死者が出れば、ある意味、人災とも言える。
新電力の新興企業は大量に産まれたが…
ドイツではまだ電気販売会社の倒産は出ていないが、多くの販売会社が値上げの準備にかかっている。しかし、ドイツの家庭用電気料金は、すでにEUで一番高い。買い取り資金を含めた再エネ経費が、すべて再エネ賦課金として電気代に乗せられているからだ(この状況は日本もほぼ同じ)。
つまりドイツでは、これからさらに電気代が上がり、ガソリン代が上がり、暖房費はガスにしろ、電気にしろ、油にしろ、やはり急激に上がる。このままでは国民は耐えきれないが、しかし、値上げしないと多くの電気販売会社が潰れる。
近年の電力自由化の波は、欧米でも日本でも、新電力と呼ばれる何百もの電気の小売業者を産んだ。新電力には、大規模な再エネ発電を持っている事業者もあれば、市場で調達した電気を転売して利ざやで儲(もう)けている中堅、あるいは零細企業もある。
調達した電気を販売している新電力は、仕入れ価格が急騰すれば、たちまち窮地に陥る。一方、大規模な再エネ発電施設を持っている新電力も、悪天気が続けば売る電気がなくなる。実際、発電の4割以上を風力に頼っている英国では9月に長く凪が続き、9月23日、ようやく十分な風が吹いたが、時、すでに遅し。その日に中堅の電力販売会社が2件倒産したという。英当局の発表では、9月末の時点で倒産は10件。