続く電力危機、「九電再エネ出力制御」再び焦点 疑問の声も
産経新聞の取材に対し、飯田氏は「典型的な旧(ふる)い議論だ。蓄電池でカバーできている海外の事例がある」と述べ、この見方に否定的だ。ただ、日本エネルギー経済研究所の小笠原潤一研究理事は「将来どの程度の慣性力や同期化力が必要かは議論されている。対応する技術開発も進むが、2030年ごろに(不足が)顕在化することはあり得る」と警鐘を鳴らす。
ある業界関係者は「再エネTFの議論は再エネに偏重するあまり、安定供給の確保を二の次にしているような印象が強い。河野氏に影響力があるだけに政府も引きずられている。ツケは現場と社会生活に回る」と話す。
再エネTFの議論をめぐっては、経済産業省の有識者会議、総合資源エネルギー調査会基本政策分科会のメンバーからも批判が出ている。8月4日、同分科会委員で、地球環境産業技術研究機構の秋元圭吾主席研究員は再エネTFを評し「最低限の知識さえも理解も有さないような委員で構成されたような組織」と断じた上で「行政改革すべき正に対象ではないかと思う」と批判した。
これに対し再エネTF側は「一方的にレッテルを貼り、侮辱的な内容を含んだ不適切発言だ」と反発している。
一連のやり取りは日本のエネルギー政策をめぐる対立が先鋭化している象徴といえる。
菅政権では河野氏や小泉進次郎環境相がエネルギー政策への関与に積極的で、再エネ導入増を主張している。一方、「(脱炭素電源という)原子力の重要性をしっかりと位置付けてもらいたい」(電気事業連合会の池辺和弘会長)とする電力業界の声は顧みられない傾向が強い。閣議決定を控える次期エネルギー基本計画(エネ基)でも、再エネ導入に強い決意が示されるが、原子力に関しては増設や建て替えに踏み込むことはなかった。
菅首相を含め、神奈川県内を選挙区とする3氏は議員宿舎で定期的に会合を持つなど関係は強いといわれる。小泉氏は8月20日、「首相のぶれないリーダーシップがなければ再エネ最優先の原則で、日本は歩んでいくという礎はできなかった」と述べ、自民党総裁選での菅首相再選を支持する考えを示した。河野氏は同29日の記者会見で再選支持を示唆した。
業界関係者は「現政権のエネルギー政策の方向性は河野、小泉両大臣が主導権を握る。このままでは2氏への傾斜がさらに強まりかねない」と警戒している。(中村雅和)
【再生可能エネルギーの出力制御】大手電力会社から再エネ発電所の出力を停止、抑制するよう要請し、電力の需給バランスをコントロールすること。電気は大量にためられないため必要とされる瞬間に必要とされる量を発電する「同時同量」を原則とするが、バランスが崩れると周波数が保てなくなり、電気を使用する設備に悪影響があるほか、最悪の場合は大規模停電につながる恐れがある。このため電気が余る場合、再エネの出力を調整してバランスを維持している。